2020年10月29日 (木) 21:55
●気になることなどあればご質問ください。次回の設定紹介でお答えします
※設定メモ
世界に名はない。むしろ、「この世界の名はなんですか」と問われて答えられる人がいるのだろうか……せめて「地球という惑星です」と答えるのが精いっぱいではないのか。それは惑星の名であって世界の名ではないのだから、質問の答えとして間違えていると思ってしまう。
だから、この世界にも名はない。
ここからずっと先の未来、“別の世界”が観測されたら、名前がつくかもしれない。
大陸に名はない。世界と同じく、この大陸の人間が他大陸を観測できていないから。大陸は、大陸でしかない。しかし蛮族の襲来などにより、海の向こうに陸があり、人間がいるのだろうと予測は立てられている。
残念ながら長距離航行に耐えられる船の開発が進まず、この世界のコロンブスはまだ出てこないようだ。
船の開発が進まないのはもちろん、魔法を使おうとするから。タルクウィニアは早く、船づくりの落とし子を呼ぶべきだと思う。
首都ランの人口はおよそ百二十万人。セルモンドは八十万人を超える程度。
治安はくらべものにならない。セルモンドは王国でもっとも治安の良い領で、最も富裕層が集う街。
ジークレットは見たことがないが、この王国にもスラムが存在する。街の一部でもスラム化させたくないセルモンド家は、貧困救済の政策に異常なまでに執着している。だから、ジークレットは浮浪者のひとりも見たことがない。
犯罪がないわけではない。たとえ治安のよいセルモンドでも、商業地区のスリは日常茶飯事だ。狙われるのは主に観光客で、スリを生業にしているものにとってセルモンドはかなり美味しい餌場になっている。
マリピエーロの活躍により法の整備はそれなりに整っている。が、教育が行きわたっていないことも原因で、犯罪率は下がらない。
もっとも重い刑罰は政治犯、人身売買、正当な理由なき殺人に適用される死罪である。王国では奴隷の売買・所持を禁じているが、例外として犯罪奴隷というものがある。死罪より下の刑罰であり、犯した罪の重さにより労働の種類と刑期が決められる。更生の余地があると認められた者は、職業訓練としての労働が割り当てられることもある。
民法や刑法といったものは分かれていないので、我々が家庭裁判所でお世話になるような事案も刑罰を受けたりする。
たとえば、家庭維持の義務。婚姻関係を結んだ者は、お互いに家庭を維持する義務があり、伴侶や子どもへの暴力、養育の放棄、また不貞行為によって家庭に不和をもたらしてはならない。
そう、浮気をしたら犯罪になるのだ。
とはいっても抜け道はあり、家庭内において伴侶以外のものと関係を持つことが納得されていれば罪に問われない。不和にさえなっていなければいいのだ。
重婚は認められていないが、家庭内で納得の上、という抜け道を使って第二夫人、第三夫人を抱える貴族も多くいる。
結婚は両人ともに成人を迎えていれば、婚姻の届を出すことができる。お互いに未婚であり、両者の合意が必要。婚姻届けは両者が揃って書類を届け出ねばならないため、ストーカーが合意なく届け出をしました、という事態にはならない。
タルクウィニア教がもっとも尊ぶものは人間の命であるため、教会の孤児を養子にすることを前提に同性婚が認められている。同性愛は忌避するものではない。
孤児を引き取ることで教会から寄付金を得られるので、恋愛関係にない者であっても同性婚を選ぶものは多い。もちろん孤児の引き取りは同性婚に限った話ではない。高齢の夫婦や、子に恵まれなかった夫婦が孤児を引き取ることは珍しくないのだ。
この世界にも魔物、魔獣と呼ばれる生き物がいる。
残念なことに物語ではいまだに登場していない、陰の薄いファンタジー要素だ。
大気中の魔素が淀んで生まれたものが魔物、魔力を持つ獣が魔獣。魔物に関してはエレメントとも呼ばれ、正確には生命体ではない。自我も知性もなく、ただ分裂と増殖を繰り返すだけのはた迷惑なやつらである。エレメントの生み出す澱は人体に悪影響であるばかりか、農作物にも被害が出る。そのため発生が確認されると、大至急駆除隊が組まれる。
魔獣は魔力を持っているだけで、獣と生体は変わりない。どちらも危険だし、どちらも縄張りさえ犯さなければ共存できる。
しかし、魔力を持つだけあって、魔法を駆使してくる個体もいる。人里付近で見かけた場合は直ちに報告する義務がある。その際、街には魔獣注意報が出され住民に警戒を促す仕組みがある。討伐、または一定期間の見回りで異常がないと判断されると、注意報は解除される。
注意報の上は警報、その上が避難指示、最上級が避難勧告。指示はなるべく避難してね、というやんわりしたものだが、勧告に関しては問答無用で家から引っ張り出される。
首都ランやセルモンドなどの大きな街で育った都会っ子は、この魔獣注意報の存在すら知らないことがある。
当たり前だが、ジークレットも知らない。
都会っ子の富裕層であるジークレットは、自分が食べている肉がどういった動物であるのか詳しくない。そのため味や見た目で勝手に牛肉、豚肉、鶏肉、羊肉などと呼んでいる。その動物たちが自分の知る動物とは別物であろうことをなんとなく察している程度だ。
一般的に食されているのはブタだが、どちらかといえば猪に近い。肉は脂身が多く、そして獣臭い。冷蔵庫などの食糧保管技術が発達していないため、基本的に平民たちは干された肉を口にする。加工されていない肉は手が出せないほど高いわけではないが、毎日食卓に出そうと思うとエンゲル係数が跳ね上がる。
ちなみに、ジークレットが鶏肉だと思って食べているものはウサギである(ウサギではない)。
野菜や果物は前世で見慣れたものから、これ本当に食べ物か?とというものまで様々。生の野菜を食す文化はなく、それをしようものなら「野生の豚かよ」と奇異な目で見られること間違いない。食べられないわけではないが、やはり衛生的ではないのでお勧めはできない。高確率でお腹を壊す。
主食のパンにスープと茹で野菜が並ぶのが一般的。富裕層であればスープの味も濃く、具材も増える。そして焼いた肉が並ぶ。
胡椒や唐辛子と言った香辛料はなく、臭い消しにはハーブや花が用いられる。ハラナなど海に面した領もあり、塩はそこまで高価ではない。その代わりに砂糖やハチミツなどの甘味は非常に希少で高価。ハチミツよりも砂糖のほうが産地が限定されているため希少。
中央管理通貨制度が適用されている。
鉄貨から黒金貨までの種類がある硬貨だが、実際の貴金属を使用しているわけではない。すべて魔法技術によってつくられたもので、その造幣方法は当たり前だが一般に流布されていない。
管理通貨制度を整えたのはハラナ時代に活躍したセンフ・ディ・マリピエーロ。造幣方法を生み出したのはジル・カントール。だからジル硬貨。
大貨が欠けたものを半鉄貨や半銅貨と呼び、平民の間では当たり前のように使用されている。しかし、欠けた硬貨を使用するのは禁止されている。半分に破れた千円札を五百円だと言い張って使用している、と本編で述べた通り。銀貨より上の硬貨は大貨がないため、この欠けた違法硬貨を用いているのは主に平民のみである。
欠けた硬貨は一定以上の大きさがあれば公務局で交換してもらえる。みんな面倒くさいから行かないのだ。
最小単位は鉄貨一枚、一ジル。日本円に換算すると四十円程度の価値になる。ただし、物価や地価が日本とは全く違うため、そこまであてにならない。
鉄貨一枚 一ジル 四十円
パンはだいたい鉄貨二枚でひとつ、紅茶は一杯鉄貨三枚、野菜は鉄貨二枚~七、八枚程度
半鉄貨一枚 大きさによって二十~三十ジルの価値で取り扱われる
大鉄貨一枚 六十ジル
銅貨一枚 一六〇ジル 二四〇〇円
半銅貨一枚 二四〇~三〇〇ジル程度
大銅貨一枚 五〇〇ジル
銀貨一枚 一二〇〇ジル
金貨一枚 五〇〇〇ジル
白金貨一枚 一,〇〇〇,〇〇〇ジル(百万ジル)
黒金貨は正式にいくらかが定められておらず、手形のように用いられる。商会などはこの黒鉄貨を所持しているかどうかがステータスになるらしい。ジークレットは今のところ黒金貨は手にしていない。
生肉一〇〇グラムあたり 鉄貨七、八枚
干し肉一袋(ひと家族四人、一週間分) 鉄貨二十~三十枚
※半鉄貨一枚で取引される。欠け具合によって中身の量がかわるらしい
教会で飼育される高級肉ひとかたまり 最低銅貨一、二枚
※寄付額によって大きくなる
靴 大鉄貨一枚~
シャツ、ズボン 同上
下着 大鉄貨二枚~ ※ぜいたく品。平民は数枚の下着を使いまわすか、ひとによっては身に着けない
宿屋 ※半鉄貨での支払いは拒否されることが多いので注意
・通常の風呂なしトイレ共同 ひと部屋 大鉄貨一枚~
※部屋の大きさによって上下
※食堂付きの宿は基本的に飯代別。鉄貨五枚でパンが食べ放題だったりするので結構人気
・高級宿 食事代別 ひと部屋 銅貨一枚~
住居 ※首都などの大きな街は賃貸が一般的。賃貸であっても、届け出をして税金を払えば店が出せる
・風呂なしトイレ共同 ベッド、机、クローゼット付きでひと月 銅貨一枚~
※場所、部屋数などによって上下
※成人を迎えたばかりで一人暮らししようと思うと結構苦しい
・一軒家(賃貸) 銀貨二枚~
・一軒家(購入) 金貨十枚~
※セルモンドの郊外で小さくて古い家の最低金額。中心部に向かえば向かうほどガンガン値段が跳ね上がる
賃金
・成人を迎えたばかりの平均月収 銅貨三枚~
※職人の弟子や商会の住み込みは食と住が保証されるため人気が高い。ただし独り立ちは難しく、給金も上がりにくい。人気はあるが早めに見切りをつける者も多い
・ひと家族を養う者の平均月収 大銅貨一枚から銀貨一枚~
※子どもが養子であれば、教会から寄付金が出るため生活に余裕が出るらしい
・工房を構える親方の平均月収 銀貨一枚~
※ダルドのソルマト木工房は先代が有名な職人だったため安定している
※デルフィナはアホほど稼いでいる
貴族制度について。
王族を頂点に公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵と続く。爵位は継承されるもの。
王族は貴族に数えず、公爵もまた扱いが特殊である。公爵家とは、いわば王家の分家。血を絶やさぬようにと、結構面倒くさいことが多いらしい。
貴族には土地持ちの貴族と官吏貴族がいる。どちらが偉い、などと明記されているわけではないが、土地持ちの貴族は領地収入が得られるため裕福で発言力のある家が多い。ただし、土地持ちの貴族であっても末端の男爵領などは村レベルで、上位官吏貴族の庇護を受ける家も珍しくない。
物語中に登場するヴァイオ家は官吏貴族、サゼロ家とセルモンド家は土地持ちの上位貴族。
ヴァイオ家は王国有数の大商会を傘下に持ち、資金が豊富である。他貴族に金貸しのようなこともしており、地位と発言力を強めている。子爵でありながら、ヴァイオ家に頭の上がらない上位貴族も珍しくなくなってきた。
分家について。
分家はそのすべてが土地持ちに限る。本家爵位を継承する者の他に、政治能力が優秀な者がいた場合、すでに持っている土地を一部譲渡し、新たな爵位を王から授けてもらう。セルモンドといえば円形都市だが、その周辺に分家をいくつか持っている。
準爵位について。
いわゆる一代貴族。継承はできない。教育のエキスパート、講爵。騎士団での地位持ち、騎士爵。魔法の研究職、魔法爵。貴族の坊ちゃん嬢ちゃんが目指すところ。
ファミリーネームについて。
好き勝手に苗字を名乗ることは許されない。家名というのは王から与えられるもの。子に継承される。
貴族は爵位とともに与えられ継承されていくが、平民であっても家名を頂けることがある。珍しいことではない。
戦争や魔獣退治で活躍した者、商売の成功で税を多く収める者、優秀な職人、などなど。ようは陛下の覚えがめでたい者に与えられる。たとえばデルフィナの父は木彫の分野で王の覚えめでたく、ソルマトの家名が与えられた。家名を継承したのはデルフィナ、ハルクレッドは入り婿のため家名を名乗ることが許されている。
爵位号について。
ジークレット『デ』ヴァイオ、エルネスタ『ガラ』セルモンドなど、このデやガラを号という。子爵や伯爵を示すものである。正式には家名ではない。
デ・ヴァイオといえばヴァイオ子爵をあらわし、ヴァイオといえばヴァイオ家をあらわす。継承権のある者でもデ・ヴァイオと呼ばれることはない。なので、デ・ヴァイオと表された場合はコルシーニのみを指す。
号は家名とともに継承される。一族が号を名乗るのはヴァイオ子爵一族の者であることを示す。継承権のある者すべてが、号を名乗ることを許される。たとえ常識的に見て爵位継承の可能性がほぼゼロだとしても、号を名乗る。除籍されたときは、この号を陛下に返上する。
王族 ファーストネーム・ラン・ドウルフ
公爵 ファーストネーム・ラン・家名
侯爵 ファーストネーム・ジ・家名
伯爵 ファーストネーム・ガラ・家名
子爵 ファーストネーム・デ・家名
男爵 ファーストネーム・ルー・家名
本当はもっといろいろあるが、キリがないので続きはまたいずれ。