「38歳親父の1994年〜中学部活編〜」投稿しました!
2020年06月01日 (月) 04:05
1994年4月
俺は中学生になった、これにより人生がレベルアップし、全てが開花する予感がした。友達と一緒に買いに行った大きめの制服、漫画の中でしかなかった先輩後輩の世界。特に気になっていたのは部活だ、小学校では全くスポーツはしなかったし、ソフトボール大会ではボールを拾うとテンパって目の前の一塁捕手に全力投球し、迷惑をかけるしかなかったが、中学生になれば俺はレギュラー選手になり、大会では勝ちまくる!頭の中ではそんなシナリオができていた。

なんの部活にはいるかって?決まっている『剣道部』だ、俺の母親は剣道部だ、だから俺は天才なのだ。今思えば母親がどれほどの選手か知らなかったがとりあえず剣道こそ己れの進む道として信じて疑わなかった。

中学に行くようになり約1週間、おれは放課後は剣道部に行くようになった。最初の練習は学校周りの外周のランニングだ、もちろん俺は余裕でこなせる、と思っていた。走り出す3分前までは。

辛い、辛すぎる、肺が痛い、同級生とは距離がどんどん離されていく。俺は疑った、『靴が悪いのか?』『走るフォームが悪い?』『同級生はスポーツ選手の息子?』そしてランニングが終わる。皆口々に『疲れたー』と言っている。俺は思った、『お前ら、絶対大袈裟に言ってるだろ』
まるでテスト前に『余り勉強してない』と言ってそこそこの点数取るみたいな感覚で言ってるだろ?

俺は肺が爆発しそうだし足は震えてもう立てそうにない。
そして言われたの『ウォーミングアップはこれぐらいだな、次行くぞー』

は?ウォーミングアップどころか既に1週間分の練習終わったんだが、そんな気分だった。

だがそこでバックレる根性もない俺は言われるがまま剣道場に向かった、そこで俺は天使に出会った。

女子剣道部のY先輩だ、中学生男子は少し笑顔が可愛い女の子がいれば簡単に恋に落ちる物だ。その笑顔が自分に向けられているかそうでないかなどでは問題ではない、自分の視界に彼女の笑顔があればいいのだ。

こんな可愛い先輩がいるなら頑張らなければと思い、俺はなんとか部活を頑張ろうと思った。漫画の中では最初は全然ダメな主人公が努力を重ねやがて全国制覇する、という話もあるからそれを信じて頑張った。

そして毎日の外周ランニングのたびに思う、『辛すぎる』これはなんなんだ?これが先輩から後輩に向けられるイビリというやつなのか?漫画では見て想像していたがここまでとは、、、。

しかしそんな事は無くこれは皆んながやっているウォーミングアップに過ぎないという事を一週間過ぎたあたりに気づいた。

俺は思った、俺は体力が無い、もちろん筋力や、運動神経、その辺のものが欠如している…

そんな事を自覚しだした矢先、1つのイベントが起きる、『練習試合』だ。週末に近くの中学に練習試合に行くという話が来た。

『一年生は全員参加』

という事だったので俺はこの時点で全く剣道に興味がなくなっていたが一人だけ行かなかったら怒られる、他の一年からもハブられる、という根性も、プライドも何もない思考回路で週末、学校に集合し近くの中学校に向かった。

世間知らずの子供だったがその中学はとんでもない不良が沢山いる、という事で有名だった。試合に勝ってしまったり、反則などをしたらその場で殺し合いが始まるのではその時俺はあの先輩を、守れるのか?などと考えキョロキョロしながら相手校の道場をくぐった。

予想に反し道場の中は落書きやシンナーの匂いはせず、防具に染み付いた汗の匂いが充満していた。まだ5月だが熱い日だったので窓は全開だった、そして俺は見てしまった。

グラウンドでサッカーをしている選手、モヒカンの選手、中学生の男子が見た初めてのモヒカン。これはやばい、やばいところに来てしまった。この試合下手すれば学校同士の抗争に発展する可能性がある、そんな時、俺はどうすればいい?隠された剣道の才能が目覚め両校の部長を叩きのめし一喝!全てが丸く収まり女子からも一目置かれる存在なる。

よし、いつどんな事が起こってもいいように片足を起て、何時でも踏み出せる体制を整えておこう、居合切りのやり方は『るろうに剣心』でマスターしている。

そんなこんなで練習試合が始まった『1年は声を出せ!』と言われた。どうやら面、小手、など一本取れたと思えば声を出して応援しろという事だ、俺はめちゃくちゃシャイな正確な上、竹刀がどのように当たったら一本になるかなど全く理解できず、他の先輩が声を出してる所に合わせてなんとか声を出していたら『声が小さい!』と名指しで怒られた。
『今から乱闘が始まる事を危惧し、飛天御剣流抜刀術をスタンバイしている俺になんて言い草だ!』と思ったが気の小さい俺は、すいませんと謝り。声のボリュームを2から3.5くらい上げた。

それから試合は進み、どっちかの勝ち、で練習試合は終わった。勝ち負けより俺は乱闘に対する準備で頭が一杯でそれ以外の事を全く覚えていなかった。この日以降俺の人生では一度も飛天御剣流抜刀術は披露される事は無かった。

そしてまた毎日の練習が始まった、この時、俺は『いかに辞めたらよいか?』しか頭の中になかった。そして決定的な事件がおこる、2ヶ月も経つと一年生も竹刀を握り素振りの練習をするようになっていた、要領の悪い俺は相変わらず皆より三歩も十歩も遅れていた、その中でもステップを前後に踏みながら素振りをする練習が特に苦手だった。

ある日俺はその練習中に顧問のヨマス先生に目をつけられ何度もその練習を注意された、最初は皆んながやってる中での注意だったのだが全然改善が見られないらしく俺1人で素振りをやらされた、その時にはもうヨマス先生の言葉は頭に入ってこず、皆んなの前で情けない姿を晒している事だけが嫌でなぜか突然俺は泣いてしまった。同級生の前、憧れの女子Y先輩の前で、その時俺は心がグチャグチャになり何が理由で涙こぼれたのか、それすらもわからない状況だった。

練習終了後だれも何も言わない、慰めてくれていいのではないかという気持ちと何も言わないでくれという気持ちの中、俺は決意した。

『部活辞めよう』


決意はしたが顧問のヨマス先生は怖い。まともに辞めると言ったら殴られる可能性がある。残念ながら俺に持病や逆刃刀を持つほど剣術に重い過去は無い。1ヶ月以上たったが例のウォーミングアップは未だに限界への挑戦だ。考えに考えた末、俺は1つの答えにたどり着いた。

『もう部活行くのはやめよう』と

部活に顔を出さなくなった初日、俺は先輩、又はヨマス先生が教室に来てボコボコにされて道場に連れて行かれると思いビクビクしていた。終業のベルがなり次第、捕まらないようにダッシュで帰った、いつもは友達と少し話したりしていたが一目散に逃げ帰った。

そんな生活が1週間続いた、先輩もヨマス先生も同級生も部活の事は誰も何も言わない、これはどういう事だろう?それと同時に俺の心には物凄い罪悪感に悩まされていた。俺は剣道部に入り3年間やり通すと決めたのだ!そして剣道部の皆んなもそう思っている!俺はそれを裏切ってしまった!きっと皆んな怒りを通り越して呆れているに違いない。

しかし俺は剣道部には戻れない!1日行かなかった事により剣道部の皆んなを裏切ってしまったのだ、もう会わせる顔がない、教室に誰かが迎えに来る事はなかったが俺は何時も足早に下校していた。

そんな事が半年続き季節は春から夏休みが終わり秋に変わった、俺は決意した『皆んなを裏切ってしまい、なんの挨拶もせずこのまま逃げる事は男して人として最悪だ、ヨマス先生だけにでも謝りに行き、ちゃんと退部しよう』

そんな決意を胸に固め俺は職員室に赴いた、一発は殴られる覚悟で行こう、心臓は張り裂けんばかりの悲鳴を上げていたが一直線にヨマス先生の机に向かった。ヨマス先生は色付きのサングラスを掛け、頭はパンチパーマだ、何時もジャージで恐らく人を何人か病院送り、又は殺しているくらいのイメージだった。

俺は体の震えを押さえ込むように小さく息を吐き出し、小さく声を出した、『剣道部、勝手に休みつづけてすいません、退部したいです、すいません』

ヨマス先生はタバコの火を消し一呼吸置いて僕の顔を見た『誰だお前?、、、あーお前かとっく退部になってるよ、まだ部活にいるつもりだったのか?誰も気にしてないから大丈夫だ、つまらん事を言いに来るな、もういいぞ、帰れ』

これが俺の1994年の冬の始まりである、この事件を境に俺は拗らせていたものをさらに拗らせていく。
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