青年と犬と、もう一人 ライナーノーツと謝辞
2017年05月08日 (月) 00:37
 どうも私です。終わる終わる詐欺を二年以上続けましたが、とうとう名目上の最終回を迎えました。

 というのも、本作のタイトルからご存じの通り、狂人二人が出会うのがオチだったんですよ、このお話。私はプロローグとエンディングが同時に湧いてきて、そこからプロットの中間を埋めていくタイプの話作りをしておりまして、なんと言いますかエンディングに移るまでの展開は二転三転しても、結局エンディングが変わったりはしないのです。

 元より、この話自体が淡々とヒロイックな事をせず、ただ生きていたいという理由にだけ従って動く主人公がいるゾンビ物を書きたい、という欲求に従ってプロットを作り、結局没を喰らったので勝手にやり始めたものに過ぎません。後、そういった変な主題にも関わらず、ボーイ・ミーツ・ガールもしてぇなぁ、という雑念が交じった話だったとも言えますが。

 そのこともあり、ここでオチなのかという流れ相成りましたが、基本的には当初のプロット通りではありました。ということで、些か解説をば。

【青年】
 府内の私立大学生。身長160cmを下回る小柄な男性。一応主人公。
 この普通に暮らしていれば、死ぬ可能性が限りなく低くなった現代において、病的なまでに“生存”に対して執着する精神病質者。生き残る為であれば、どんなことでも実行できる狂人。
 平和な現代であれば、このまま人知れず用心が行きすぎる人間として生きて、適当に寿命なり何なりで死んでいったであろう人間。しかしながら、まともでは生きていけないであろう世界において、彼の狂気は仕事をし始める。
 書きたかった話の主題から逆算し、自然な流れでこの狂人が産まれた。人が人を見捨てるには相応の理由が必要で、奪うことにも殺すことにも何の躊躇いも無く、やりたいことをやれるキャラクターを追求した結果の産物。精神的な強者であり、肉体的には凡夫で、ヒーローなどにはなれはしない、むしろ絶対なろうとしないというのも主軸。

 コイツの何処が性質が悪いかと言えば、社会的な常識を理解して実行はできていたこと。共感も同情もした上で、まぁ私に関係ないしと淡々と見捨てられる冷血動物である。故にこそたまに逆上したり復讐したがったとしても生きてこられた(無論、プロットシールドもあったけれど)。

 人間らしい執着があるようで無く、無くなったら無くなったで仕方ないなとか、まぁいいや、で終わらせられるので精神的な強度も凄まじい。息の根を止めない限り、何があっても絶対生き続けるマシーンとも言える。問題は、その生き続けることが目的であり、生きて何を為すかという人間的な主題が迷子であることだが。

 尚、本人はそれを自覚しつつも、生きている意味なんて哲学的な思考は根元から放りだしていたりする。全くの余談ではあるが、別に性欲が無いわけではない。周りに居る女が悉くアレだっただけで。

【少女】
 府内の高校に通っていたハーフのJK。ヒロインとして私の脳味噌が苦心して作り出した可愛い女の子。尚、設定を見せた時の反応は一律「やっぱお前変だわ」だった。何でや、金髪大型犬属性女子とか可愛いやろ!!

 ウケを考えるなら女の子は必須だし、ボーイ・ミーツ・ガールもやってみたいという混濁した欲求の下考え出される。豊かなうねりを帯びた金髪と、鋭いが愛嬌のある目、そして何が楽しいのか常に浮かべた人なつっこい笑みから大型犬、ちょっとぬけたゴールデンレトリバーのような印象を受けるクラスの人気者……であるが、その実態は自分が楽に生きるのであれば何だってする、青年とは逆に現代の環境に即した精神病質者。

 彼女の楽に生きる、というのは絶頂に至って働かず済む環境の構築や、栄華を蕩尽するような生活のことではなく、ある種の中庸である。盛り上がりもなければ谷も無い、平穏で楽なラノベ系主人公がのたまうこと(吉良さんかな?)。だからこそ、彼女の楽に生きるというのは、現代においては然程迷惑なものではなかった。和を尊んで周囲を乱さないことで精神的、肉体的平穏を保ったり、むしろバランサーとして役には立った。死体が動き出したりしなければ、無難に舵取りできる相手と結婚して、特に狂気を悟られることも無く無難に死んでいったであろう人物。しかし、彼女の狂気もまた、世界の歯車が狂ったことで仕事をし始めた。

 実はホームセンターで大虐殺やらかしたり、離脱するために進んで混乱の目を蒔いて色々しでかしたり、死体が侵入してきて逃げるため懐いていた子共の頭を全部吹っ飛ばしたり色々しでかす予定であったが、おやっさんの活躍のためそこまでの畜生行為に手を染めずには済んだ人。だが必要があれば平然とやってのけた点においては、青年の同類である。

 主軸は青年と同類でありながら、相反する要素を多く持つ者。陽気かつ肉体的強者であり、更にはモブ童顔と対比してハーフ美少女である。さぞかし高校ではおモテになったことであろう。共通する点は、どちらも世界がまともだろうとおかしくなろうと、立派に生きていけるであろう精神的強者である所。青年と違う所は、積んだらサクッとI can flyを迷わず実行する所であろうか。

【女】
 元々存在だけ匂わすサムワンだったが、私の気と筆が乗ったが故に詳細が生えてきた面倒なことになったヤツ。青年が共同生活は一応できて、寄っかかってくるだけではなく、互恵関係にあれば現状でも誰かを受け容れうることの裏付けの為に考えていた。

 見上げるような長身と恵まれたボディバランス。艶やかな黒の長髪に涼やかな美貌という、純粋に私の性癖に沿った外観。腹筋は薄らと割れ、太股のラインもバイカーだけあって鍛え上げられている。女コマンドーなナリで狩猟が趣味のエアライフル部でも屈指のキャラの濃さを誇った御仁。多分リアルに居たらコバンザメの如く慕っていたであろう。

 設定的には青年との補完関係にあったキャラ。青年に無い肉体的な強さを持ちながら、精神的には不安定だった精神病質者。他殺願望に見せかけたどうしようも無い自殺願望を持っており、殺したいと欲求が湧き、更に自分を殺してくれるような相手を求めていたとかいうどうしようもないヤンデレ。ある意味、本作において大勝利した人物でもある。ホントどうしようもないな。

 青年の補完であると同時に、不完全な相方でもあり離脱が確約されていた。これは世界が変わらずとも同じで、その内彼女は自己に内在する自殺願望と他殺願望が形容しがたいバランスで入り交じった狂気に潰されて、何処かで壊れていただろう。

 とりあえず私の性癖に従ったキャラメイクが施されたので、これでもかとばかりに色々優遇した。尚、少女の時と同じく「やっぱお前変だわ」との感想を同期及び後輩、そして先輩からも頂戴している。

【おやっさん】
 気さくな自衛官でまとめ役。ゾンビ物なら軍人は必要やろ、との脊髄反射的思想により産まれた。コンセプトはゾンビ映画でもパニック映画でも終盤辺りに死にそうな軍人。だが本編中では最初から最後まで殺すつもりが無かった辺り、屈折してるなとか言われても何の否定も出来ない。

 覚悟決まった防人は狂人と大差ない、という凄まじく失礼なコンセプトにしたがって練られている。国を守るためであれば、人倫において禁忌とされる殺人であっても良しとするのは、平和な現代を謳歌した経験を持つ人間にとっては紛れもない狂気であろうとの発想。狂人しか軍人になれないではなく、優れた軍人になるにはある種の狂気が必要だと考えた故の発想だが、何か色々墓穴掘って批判されることになりそうなのでやめておこう。

 最初は穏やかながら優秀なまとめ役として、後半は優秀な防人として活躍、というか活躍させたかったが故に少女の暴挙が無く、逆にコミュニティからの恐怖を一身に集めたりしたが、基本的には守ることに命を賭けたいい大人であり、冷静になる時間さえ得られれば皆もある程度は納得できるであろう。

 階級章の無い野戦服だとか、普通の自衛官に支給されていない機関拳銃持っていたりと「おい、コイツあそこの所属……」と既に若干正体が割れているスーパーエリートでもあった。まぁ、そこは後日談でもおいおい。とりあえずゾンビ物だと謎の補正で主人公を逃がすために死ぬ軍人に、まともに軍人させてあげたかっただけとも言える。

【カノン】
 キャンピングカーでの旅と言えばワンコやろ! との短絡的思考により主人公の相方に抜擢されたワンコ。シベリアンハスキーなのは、私が子供の頃近所のスポーツショップで看板犬やってた子が大変可愛く、そして大変賢かったため心底気に入っているからである。そりゃ犬ぞり引いてたような犬種だし、きっちり躾けたら賢いのは当然さね。

 対人・対ゾンビレーダーとして活躍し、もふもふ癒やしとしても八面六臂の大活躍……と言えるほど目立たせてやれなかったことが唯一の心残り。とはいえ、そこはまた全国放浪記で活躍の場面があるので何とでも補填できるのだが。まぁ命救ったりもしてるし、十分居た意味はあったと思いたい。少なくとも「カノン出す意味あった?」とか言われない程度には……。

【名前】
 ドイツもコイツも本名を出さない理由は、雰囲気作りのためです。自身という存在を担保する名前を敢えて出さぬ事で、主人公達の異質さと狂気を際立たせると共に、そういったことすら頓着していられない環境だとしたかったので。

 これは個人的には不気味で荒涼としたゾンビアポカリプス世界にあっていたのでは無いかと自画自賛してみる。名前っぽいものがあるのがエコーとカノンだけってのは、まぁ苦心したと思って下さい。

 一応、全員名前は普通に名前ですとも。ええ、きらっきらしてて名乗りたくないとか言う理由ではないのです。

【死体】
 動く死者。ロメロゾンビをベースに色々と都合の良い、もとい好みの設定をミックスした舞台装置的な何か。最終的には脅威でありながら空気という点は一緒。

 感染は接触感染が基本で、体液等を取り込んだ場合の致死率はほぼ100%。高熱を発した後に死亡し、数時間で起き上がる、最近流行の感染→死亡→復活までのインターバルが結構長い伝統的ゾンビ。

 実は筋肉と神経は代謝を続けており、逆に発達すらしているため、表皮や機能を失った内臓は腐れども活動に必要な部分は腐らないという便利な連中。その為、理論上壊されない限り長々と動き続ける。物を食うのは、それを体内で発酵させて熱エネルギーとして活用するためだったりとか色々考えたが、結局解決されない問題なので色々適当。むしろ、最初の案には一言 ぞんび としか書いてなかったりした。

【狂気】
 本作のメインテーマ。むしろあんな中生き残るにゃどっか狂ってなきゃ無理だろ、という発想から。最終的に素手で殴りかかったりする辺り、きっとあの意識低い系警察官(元)とか対BOWゴリラは頭がどっか変になってるよ。

 狂っているからこそむしろ冷静に生き延びられそうだなー、というふわっとした発想から、逆にメインテーマにまで発展したあたり何なんだろう。まぁ、狂人って言っても分かりやすいあっひゃっひゃでナイフ振り回すようなヤツばっかじゃないよな、というハンニバルに憧れた的なものかもしれないが。

【小道具】
 銃・車・煙草! 銃・車・煙草! って感じで。冗談はさておき、ゾンビ物に欠かせないエッセンスに自分の拘りを自重せずトッピングしました。ええ、荒廃した世界には煙草ですよ煙草。なに? 健康に悪い? 一番健康に悪いのは生きる事だ、これ以上悪化させたくないなら首を吊れ、と開き直っている私ですので気にしません。香り高く豊かで……おっと、まぁ設定については作中でも、他の活動報告でも書いているのでこの辺にしておきましょう。

 変態銃とかレトロ銃も好きなんですが、まぁ日本じゃ出すだけ出してこの辺が限界なのですよ。仕方ないですね。

【結局何が書きたかったか】
 とまぁ、本質的に何が書きたかったかは、ご理解頂けたかと思います。ヒロイックでは無いゾンビパニック、それに尽きるのですから。別に嫌いでは無いのですが、ゾンビ物のメインキャラはどいつもこいつも博打みたいに人助けをして、結果モブが一人二人死んだりして差し引き0かちょっとマイナス、みたいな展開が多いので、たまには利益だけ計算して生き残ろうとするヤツはいないのかっていうのが発想の切片でした。

 まぁ何分時間を書けてかいたものですので、色々と頭を抱えて悶えたくなる部分もありますが、大凡やりたいことはやって、予定通りにできたので満足です。むしろ出会わない方が自然なのでは、とか、やっぱこいつら最後は殺し合わせた方が良いのでは、というのもありましたが、結局はタイトルに殉じた(誤字に非ず)形に落ち着き申した。

 改めて最後に謝辞を。感想や誤字の報告に助けられ、モチベーションの維持に大変役立ちました。Twitterでフォローして、感想や誤字報告までしていただいたことにも感謝を。中にはスパッと「ああ、うん、せやな」と自分でも書いたときの自分の無知さ具合に呆れる突っ込みをしてくれる感想もあり、今後の活動に大変役立ちました。うん、一番は面白いって誉めてくれた感想なんですがね!(現金)

 とまれ、生きている限りはテキスト弄っていないと落ち着かない病の罹患者ですので、今後も色々とやっていくと思います。とりあえず放置してる御猫様短編も下書き仕上げてやらねばなりませんし、青年達の物語も今暫しお付き合い頂くだけのストックがありますので、お別れにはなりませんが、ここで区切りとして感謝を述べさせて頂きました。

 それでは皆様、本当にありがとうございました。また、これからも何卒よろしくお願い申し上げます。2017年5月7日 去るGWを惜しみつつ、女の愛飲煙草を燻らせながら。   
コメント全9件
コメントの書き込みはログインが必要です。
加工豚
2020年06月29日 18:06
週末世界を旅するこの小説、大好きでしたよ。
様々な方が書かれているゾンビ小説の中で、色々と見てきまして、この作品も大好きでした。
ありがとうございます!
完結した時に2週目、そして他のゾンビものに物足りなさを感じ3週目をしてきました。

アンケートの方にはコメントしたのですが、こちらにはしていなかったので改めて・・・

連載お疲れ様でした!
読む度に、散りばめられる深い表現にため息が出ました。
「如何にも・・・」を読みつつ、アフターストーリーなどなど、楽しみにしております。m(_ _)m
蒼 ぶどう
2017年05月08日 22:19
お疲れ様でした。
個人的には名前が明記されていない点は結構好きでした。

後日談等も気長に待ってます。
これからも頑張って下さい。
完結おめでとうございます、お疲れ様でした。
スライサー
2017年05月08日 11:12
長期連載、お疲れ様でした。
ゾンビ関係の書籍では商業&同人合わせてもで五指に入る程面白かったです。
D3
2017年05月08日 10:32
独特の展開、楽しく拝読させて頂いたことに感謝します。お疲れ様でした。
 当方はシフト勤務ゆえにガッテムウィークでしたが、夜勤明けにまた最初から読み返してみます。

 次回作も期待していますが、一番の希望は個々のエピソードです。と、おねだりしてみました。何卒宜しくお願いします。
爺さん
2017年05月08日 10:29
ロメロの「ゾンビ」以来の傑作と
思います。人々が生き生きとしてるし
ゾンビも生き生きとしてる。
本当にありがとうございました。
伊勢
2017年05月08日 01:57
長年の連載お疲れ様でした。
この作品は多くのゾンビ物の中で、一番楽しみにしていた作品です。
GW明けですが、睡眠時間削って全話読み直します!!
ラヴィヤン
2017年05月08日 01:28
とりまお疲れ様でした。
次を楽しみに待ってます。