『 ホーム 小説情報 感想 レビュー 縦書きPDF ブックマークに追加 表示調整 Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─』の感想を書きました
2020年10月02日 (金) 18:43
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良い点
剣劇の描き方が秀逸です。ぶつかり合いの描写を楽しめる作品であったように思えます。
半ば監禁のような状況での生活だったため、世間知らずになってしまうのは仕方ないような気もします。守るように母親に言われたことが呪いとなって極端な行動に走ってしまった兄と、そんな兄のせいで狭い世界でしか生きられなくなってしまった妹の心情も、よくできていたように感じます。
見返してみると、チェントはエピローグの前まで精神面ではほとんど成長しておらず、流されるままにほとんど世間知らずで過ごしています。最初から最後まで徹底的に狭い世界でしか生きておらず、それどころか周囲に興味がないように見えるため、それは物語の味にもなる反面、後述する欠点にもつながっている気がしました。
気になる点
魔法剣や魔法が突然出てきてしまったところで、面食らってしまいました。それまで読者には魔法というものが存在すらしなかった(タイトルから魔法を使うのはわかってましたが)状況から、鍛錬したシーンすら見せずに魔法で作った剣や範囲攻撃魔法が出てくるなど、少々唐突であること。たった数か月の鍛錬で鍛えた兵士を置き去りにするような強さを手に入れる……などは、説得力に欠けるというより、作者が話を終わらせるのを急ぎ過ぎたというように感じます。引き延ばせというわけではありませんが、もう少し描写に付き合わせるだけの物語を書ければよかったな、と。
タイトルも、魔導士と呼ばれるのはちょっと首をかしげます。せいぜい魔剣士くらいのほうが適切ではないでしょうか?

また、登場する武器が剣、槍、弓矢のみであり、時代背景がわからないとはいえ、戦争ものとしてはいまいち説得力に欠けるようなところを感じました。
大砲とか、バリスタといった攻城兵器や砦を攻めるための攻城塔などがない世界観なのでしょうか? まぁ、馬具の一種である鐙が作られた年代と大砲が作られた年代などを考えれば不思議ではないのですが……チェントがあまりに世間知らずすぎることも相まって時代背景が見えないためにつかみ損ねていました。
魔法が発達したから火薬などの研究意識が薄れてしまったのでしょうか?




剣と剣のぶつかり愛に対する熱意は感じられるものの、それだけにこだわり過ぎた結果、それ以外が何もないといいますか。例えば兄を倒すにも、その気になれば爆弾を抱えて「魔王様万歳!」 と、突撃する手段や、投網を用いるなど何らかの対策を取る手段もあったはず。それに対して、シンプルに剣で切りかかるだけ、もしくはチェント便り一辺倒なのは残念な気がしました。最終的に負けるにしても何か対策が欲しいところ。
砦や城を落とすのに必要な戦力は三倍以上必要と言われています。一度城を落としてきた相手から城を取り戻すというのは英雄譚にしても少々やりすぎで、なおのこと納得させる描写があってほしかったのですが、そういうのを描くことが出来ていないのでもやもやが残ります。
一言
良かった点に書きました通り、妹をほとんど精神的に成長させないことで終盤まで兄の気持ちを理解できないところは良いと思います。だからこそ、成長していないチェントに対する周りの反応や、そういった性格に至る過程をもう少し丁寧に書けるといいのではないかと思いました。
チェントの世間知らずというか、周りのことに興味がない性格はハッキリ言って異常です。普通の人がどんなことをしながら暮らしているか全くわからないのは、彼女の一人称小説でありながら、彼女が全く一般市民に目を向けなかったせいでしょう。あるいはそれは裏切り者の子供という立場ゆえに、特殊な家庭環境で育った結果そういう性格が形成されたとも取れますが、誰もそれに対して言及せず、まるで当たり前のことのように流されてしまったのはちょっと……主人公の性格がおかしいと(間接的にでも)言葉にしたのは、スキルドやシルフィくらいでしょうか? もしかしたら内心ネモもそう感じていたのかもしれませんが、徹底的に一人称だったためか、そうであることがうかがい知れないので、作者の見解が聞きたいところです。
コメント
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