2018年04月19日 (木) 23:56
ミツイ氏が電子の海を彷徨っていると、不意に警戒音が聞こえた。機械的で無機質なその音は氏を驚かせた。
どこかの島の領海に入ってしまったかと辺りを見回せば、一つの島影が見える。警告音はその島から聞こえてきているようだった。
しかし、電子の海において上陸拒否を掲げる島などあるだろうか。もしもあるならば、そもそも島の影形が見えないようにするはずだ。事実、どこからもたどり着けない蜃気楼のような島の存在を氏は知っている。知っているだけでたどり着いたことはない。
何かしらペナルティがあるかも知れないとおっかなびっくりではあったが、氏は浜へおんぼろの木舟をつけた。
島はどこか近未来的な様相であり、科学技術が打ち捨てられたような、そんな退廃的な雰囲気の島だった。
色のない、いくつかの短編たち。
その中から、氏は一つを選び取った。
黒雲さんの、
『アンゴルモア』を読んだ。
懐かしい響きだった。
恐怖の大王を傍らに感じて育ってきた氏は、ある種の親近感のようなものをその単語に感じている。流行の終焉までを見届け、たまに思い返しては感傷的な気分に浸るのだ。
世界を破滅に導くといわれた恐怖の大王。
その名を冠した、戦闘用のアンドロイドの話だった。
――アンドロイドに心は必要か。
これは、はるか中世から現代に至るまで、未だ誰もが解を出せていない問題である。
氏の持論ではあるが、その問いは、"ヒトに心は必要か" と根を同じくする問題なのではないかと考えている。
アンドロイドに心を与える事に是非を問いながらも、時代の中で与えられた役割をこなし続ける『アンゴルモア』という名のアンドロイド。
その成長がもたらすものは、人類の破滅なのか、それとも――
飲み終えたインカコーラを静かに置き、ミツイ氏は大きく溜息をついた。いつか、現代においても、技術的特異点の先に人類の価値観を覆すような出来事が起こるかも知れない。その際に生まれるであろう、創作物の価値の変動。これが何よりも気にかかった。
願わくば、インカコーラの味だけは変わらないでいて欲しい。
そう願って、氏は島を後にしたのだった。
○ ○ ○
ども、三衣 千月の実務担当、恐怖の大王が来てほしいと願っていた方、ミツイです。
もう、20年も前になるんですね。1999年って。何かしら、どこかしら、誰かしらそわそわしているような、そんな空気がありましたね。あの頃は。
もしかしたら、影で世界の破滅を食い止めたヒーローがいるのかも知れないと妄想すると、なんだかわくわくしたものです。
SFの魅力は、そのわくわくにあるんじゃないかと思うのですよ。
理論を組み立てた先にある世界。
その世界で起こるあらゆる事象は、その世界のものではあるけれども、相似性をもってこちらの世界にも何か気づきを与えてくれる。
そんなもんじゃないのかなあと。
SFの核の部分をくyっと詰めた短編でした。
黒雲さんの、
『アンゴルモア』。
さて、明日はどんな作品に出会えるでしょう。
また明日もお楽しみに!
テーマとしては長編で扱っても充分なものだと思いました!
SFものは映像にすると映えますよね。