「麻雀少女青春奇譚【財前姉妹】」更新しました!
2022年11月21日 (月) 13:08
15巡目
◉合格祈願

 金色に近い茶髪をした少女は車窓から見えるのどかな風景を立ちながら見ていた。
(落ち着くわ…どこまでも緑。時々花が咲いていて。東京でコンクリートばかり見て暮らしてきたのが嘘のよう。やっぱり人間は自然の中が落ち着くようになっているのかしら。人間である前に動物ってことね)
 そんなことを思いながら大洗鹿島線で鹿島神宮へと向かっていた。来週プロテストを受ける井川ミサトである。鹿島神宮は勝負の神様。麻雀プロテストの合格祈願にはもってこいなのである。
 車内はガラガラに空いていて座席は選び放題だったが例によってこの少女は座らない。常に肉体を鍛えている。鍛えてはいるのだが、食べ物は好きな物を食べたい。そこは譲りたくないので、せめて運動量は多くしていく。ミサトはそういう考えだった。
 美味しいものを食べることすら我慢して鍛えるのは違うような気がするのである。そこは食べようよと。なので当然、今回も鹿島神宮でお祈願を済ませた後はアイリスラーメンに行くつもりだ。けど、今回の目的はラーメンではなくフルーツサンドだ。
 正直言って迷った。ラーメンを食べるべきかどうか。両方ともというのは大人の考えで、まだ学生のミサトにはラーメンもフルーツサンドもというのは贅沢過ぎた。
 前回は店内でみんな一緒にラーメンという計画だったので選択肢に無かったが今回は一人旅だ。無人販売機のフルーツサンド…食べてみたい!
 しかし、ラーメン美味しかったし…でも、イチゴサンド食べたいし…。決定出来ないまま長考中のミサトだったが到着したら選択の余地がなかった。なぜなら現在時刻14時55分。昼営業のラストオーダーは14時45分までなのである。さすがに夜営業の17時までは待っていられない。
(よし、運命がイチゴサンドを食べろと言っている)
 ラーメンを食べたい気持ちはあったけど、今回はイチゴサンドに決定。ミサトはイチゴが大好きなのだ。
 無人販売機でイチゴサンドを購入する。
 すると店主がミサトを見つけた。
「あ、また来てくれたんですね。ありがとうございます」
 店主はミサトのことを覚えていた。
「昼営業のラストオーダーには間に合わなかったのでイチゴサンドだけ買って帰ります。また来ると思うので次回はまたラーメンを食べますね」
 店主はにこりと笑って嬉しそうにした。
「ありがとうございましたー!」

 駅へ向かう途中で自販機を見つけたので紅茶を買った。ミルクティーだ。きっとイチゴサンドに合う。
 電車が来るまではまだ時間がたっぷりあったのでミサトは待合室でイチゴサンドとミルクティーを味わった。

(美味しい。やっぱり美味しいものは我慢しちゃダメね。こんなに幸せな気持ちになれるんだもの)

 祈願が目的で来た鹿島神宮だがそこまで行ったらアイリスラーメンはセットだな。と井川ミサトは思ったのだった。

 プロテストまであと3日。
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