僕は、小学生の頃一つ年下の女の子に惚れた。うちの父が経営している会社は、大手の製薬会社。そして彼女の父親は、うちの会社の研究員。

はじめて彼女を見たのは、うちの会社の主催する祭でだった。

お互いまだ小学生の頃。随分冷めた子どもだった僕に、一緒に遊ぼうと何度も頑張って声をかけてくれたひなのに、僕はたった数時間の間に惚れてしまった。

一緒に食べたりんごあめの味は、とてつもなく美味しかった。今でも、りんごあめは僕の大好物だ。

僕は、それから数年、こっそりひなのを見守り続けた。ひなのの事は何でも知ってる。僕の人生はひなのを中心に回っている。

ひなのの進学する可能性の高い高校に入学して、ひなのが入学してくるのを待った。ひなのが過ごしやすいように、いざという時守れるように、権力が必要だった。風紀委員長の座は都合がいい。一年で副委員長になった。来年は委員長になれるだろう。

せっかくひなのと同じ学校になれるのに、もしひなのが他のやつのものになったとしたらどうしよう。ひなのはとても可愛い。何とかひなのを手に入れることはできないだろうか。

そう思っていたら、父に面白い話を聞いた。薬の実験で、ある薬が面白い効果をもたらしたらしい。元々の目指している薬とは全く違うようだけど。

その薬を与えたマウスが、異性のマウスに酷く執着し、しつこく追い回したりするようになったらしい。それを聞いたときは何も思わなかった。けど、たまたまある言葉を聞いた。「ヤンデレ」とかいうものがあるらしい。調べてみた。こんな風にひなのに愛されたい。こんな風に僕に溺れてほしい。

もしかして、この薬をうまく使えば、ひなのを「ヤンデレ」とやらにできるんじゃないだろうか？

僕は薬をこっそり会社から持ち出した。薬の効果は短いし、それに廃棄予定だったから、思ったよりは簡単に盗み出せた。

暫くマウスで実験して、調整する。おそらく人体に害はないだろうというところまで薬を調整してから、友人に投薬してみることにした。

彼にたまにあげるお菓子に薬を混ぜる。暫く様子を観察する。

彼はかなり執着心が激しくなった。無理やり欲しいものは自分のものにするし、決して人に譲らない。なんだかおしいな。彼のことを学校のみんなは「俺様キャラ」だという。やっぱりこれは「ヤンデレ」じゃない

暫く調整を加えた。

だんだん僕の理想に近づいてきた。あと半年でひなのが入学してしまう。早く仕上げてしまおう。

なんとか薬を完成させた頃には、ひなのが入学する一ヶ月前だった。
僕は会社の見学の途中、薬の瓶を「偶然」割ってしまい、その瓶を管理していた「日野さん」に深く謝罪する。

お詫びに、と、日野さんに洋菓子の詰め合わせを贈る。
その中身はプリンが一つと、バウンドケーキ、クッキー……いろいろ入っているが、僕にはひなのが必ず食べるであろうものがわかるから、薬を仕込むのは簡単だった。

ひなのはプリンがものすごく好きだから、必ずプリンを選ぶだろう。

あとで隠しカメラで確認したら、やっぱりプリンを選んで、美味しそうに食べていた。そんなひなのの様子はとても可愛かった。

暫くして、ひなのに発作が起こり始める。友人には出なかった反応に、少し焦る。けど、どうやら「ヤンデレ」の真似事をすれば治るようだ。……都合がいい。いいタイミングで彼女に僕に執着させれば、あとは完璧だ。

ひなのが入学した。

しくじった。同じ薬を投薬しているせいか、それとも偶然か、なぜかわからないがよりにもよって、ひなのは僕の友人に執着した。

友人は暫くしてそれに気づき、自分と同じように活動するひなのに惹かれていったようだ。くそ、どうせ実験するならもっと離れた人間にすべきだった。

ひなのを僕に向けさせないと。

僕はひなののストーカー行為を知っているぞと脅しをかけて、それからひなのがこちらに執着するようにひたすら甘やかす。
時にはプレゼントしたプリンに、別の薬も混ぜさせてもらった。

ひなのはあっという間に僕に執着してくれた。これが「ヤンデレ」か。なんてすばらしいんだろう。

自分に執着が向かわなくなったことに気づいた友人が、どうやら暴走したらしい。ひなのが夕方に拉致された。

まぁ、ひなのにはGPSを取り付けているし、場所は一瞬でわかったんだけど。

暫く二人の様子を伺う。ちょうどひなのの発作が始まったあたりで、ひなのを助けに入った。
「わたしだけの、ものに、なってください」
ぞくぞくした。思った通りの結果に、ほおが緩む。
「喜んで」
むしろ、二度と離す気はない。

友人で実験する必要がなくなった為、暫く投薬を行わなかった。どうやら友人から薬は抜けたらしい。元の普通の性格に戻ったようだ。
最近、僕が何かおかしいと感ずいたらしい。面倒なことにひなのを好きな気持ちは消えていないようで、ひなのを助けようとたまに邪魔をしてくるようになった。
邪魔だな……。どうしようか？
ひなのが僕に「ヤンデレ」てくれて幸せだから、今は特別に見逃してあげようか。


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オチのみんなヤンデレだったよーのうらばなしでした。生徒会長は圧倒的被害者です。
もう一度短編にあげるほどの長さはないので……。