2017年03月19日 (日) 13:00
こちらでもお久しぶりです。
今日も今日とてランキングにて良作力作を発掘作業と洒落込んでいたら、日刊現実世界〔恋愛〕のランキングに見覚えのある題名がある。しかも7位ですって。
ご愛顧ありがとうございます。投稿後の瞬間風速で百位にギリギリ入れば嬉しいなと思っていたら望外の評価で驚いております。
本当に本当にありがとうございました。
お礼と共に舌っ足らずな作品の少し蛇足を。
この作品の主人公たる「私」(前世名エリィ《仮》)ですが、少し男性不信というか、美形王子様に隔意を抱いている少女です。
幼少期に記憶が見えたけれどその記憶とやらが全然ロマンチックじゃない。
美人なだけな下級貴族の娘が、それ故に王子様に見初められはした。けれど王子様に飼われている事に鬱積したのか誰かに処理されたのか短命に終わっちゃった佳人薄命を地でいった人が前世。
そこで生まれ変わったらしい「私」ちゃんはそうした境遇はまっぴらと幼少期に思う訳です。
記憶の全てが甦った訳でもなくて、鮮明に見えたり思いが溢れたりもするけれど、あくまでも自分じゃない人。細かいディティールは不明な訳です。異世界なんだか過去なんだか。あるいは本当なのか妄想なのか。
大人の記憶が垣間見えたから多少大人びたれど、基本は普通の娘さん。
所謂一昔前のギャルゲーの幼馴染みヒロインか、乙女ゲーの平凡ヒロイン(と言いつつ作中指折りの美少女)か、な訳です。
ただ前世の境遇もあってそんな自分に夢なんて特に抱いてない訳です。
凡庸は凡庸なりに生きようと。
別に気が強い訳でもないのですが、〈王子様〉は前世の面影だけで執着しているようなので思いっきり振り払っています。あくまで今世の〈王子様〉が主体ならば、振るにしてももうちょっと穏当に出たでしょう。受け容れる気は皆無ですが。
しかし敢えてこの作品は〈王子様〉の心情は書いていません。
上記は「私」が思っただけであり、特に〈王子様〉の内面を慮っていません。
才色兼備なんて評価は自他共に皆無な「私」は、たとえ心底惚れていても〈王子様〉と付き合う気はありません。旧家で大企業の中枢な直系な一人の伴侶なんて無理だからです。
ざまぁとかではなく、嫌ってはいても「私」は前世の王子様を憎んでいません。エリィ嬢は納得して逝ったようですし。
だから〈王子様〉が良い人だろうが何だろうが、知ろうとも思わなかった訳です。無理に忌避したと言うよりも、特に縁がある人とは思っていなかった。だから〈王子様〉は嫌ってすらいません。
転生ものは嫌いじゃありません。昔懐かしギリシャ神話の神々が現代に転生して世界の運命と前世の恋愛の精算を行うド少女漫画なんて好きでした。
妹がいて少女漫画を読む人だった私は、その辺の転生物や異世界物に慣れ親しみました。アクション嗜好やFT嗜好が強い私は、早い段階で妹との嗜好からズレて自分で買っていました。
コ○ルトの戦国武将転生物の最初の数巻も読んでいたり。
ただあれ最初はBL色強くなくてね。次第に男同士でイチャイチャが激しくなって買うのを止めて数年、本屋で見かけた新刊を気紛れに立ち読みしたら……以降は門外漢が触れてはいけないガチな作品と認識しました。がそれも遙か昔、本当のところはどうだったのやら。
いずれにせ少女漫画や少女小説のFTやSFにたまにあるトラップですな。
いや24年組の作品はそれを含めても多少は読んでいたりもするので、知識だけはあったりもしました。いや最近のは全然ですし、作者買いの摘まみ食いの結果目に入っただけですから積極的に触れた訳でもないんですが。
そんな訳で火素矢は年季の入った薄い転生物ファンな訳ですが、割と転生物って前世と同一人物な事が多い訳です。
海外古典SFの「火星シリーズ」とか「永遠の戦士シリーズ」とかも転生物かしらん。アレは別人格か。
ギリシャ神話の神々転生物なんて前世の記憶を思い出していないヒロイン以外完全に前世の続きな訳で。まあその分ヒロインとヒーローの普通のラブコメと、神がどうちゃらの二重構造が楽しかった序盤。
まあそう言うのがメインな作品はいいのですが、生まれ変わっても一緒と言うのが引っ掛かる作品も多くて。
いや作品が悪いのでは無くて読む側の私の問題です。苦難の後の開放的ハッピーエンドの効能は承知していますし、大抵はグダグダ考えんと楽しんでもおります。
ただ同じような苦難に態々突っ込まんでもと、頭に過ぎることがある私は小市民なんでしょう。
記憶がある転生物だと、特に悲恋な場合に似たような境遇に生まれ変わるって、別な人生ならば前世の想い人とは違う道を選ぶのもありだと思ったことも多く。
だから「始まらない王子様との物語」は前世も今世も王子様は何を考えて何をしたかは判りませんし、あるいは前世も仕方が無い事情の一つや二つがあったかも知れません。
「私」ちゃんは意図的にその可能性に踏み込みません。ある意味で真実を追究することから逃げた訳です。
ただ作者的には、最期に〈王子様〉が離れた理由は「私」ちゃんの考察通りだろうと。
前世ありきでやり直そうとしたら、前世の想いも記憶も消えないまでも薄れていき、次第に冷静になってしまったと。
あらゆる意味で大企業のトップの伴侶の器では全くない「私」本人まで忌避しているので諦めた。
ただし前世程硬直していない時代に生きる優秀な〈王子様〉は「私」の同意と愛情があれば、苦難の道を乗り越え、親族や部下を納得させる事が出来たかもしれません。
切っ掛けがどうであれ生じた想いを育てて前世なんて関係なくて豊かで幸福な未来に供に辿り着く可能性もあったでしょう。
前世と同じ末路も有り得たかも知れませんが、そうじゃ無い可能性だって多分あった。
だからこの話は「私」が〈王子様〉に肘鉄を食らわせる話ではなく、苦難の道なんて歩きたくもない上に〈王子様〉に愛着を持ちたくない「私」が、始まったかも知れない物語をやり過ごした話です。
なんて事を火素矢の技量では作中で上手く説明できなかったので……やっぱ格好悪いな、こういうの。
ただそんな意図は全くなかったのですが、転生物に対する批難的意図を込めたアンチテーゼ物に見えなくもないので、必死に言い訳を。
「平凡な女主人公が本当に平凡なら、苦難の道を征くヒーローからは素っ飛んで逃げるよな」ってだけです。
またの機会があれば、よろしければ楽しんでください。