2020年08月13日 (木) 10:09
――東京都近郊。中央線沿線。
あまり綺麗とは言えない車窓からの景色は、雑居ビルと年季の入った集合住宅の作る都市の悲哀とでもいうべきか。
中学校に入ってすぐの頃は、満員電車やこの都心特有の景色に興奮もしたものだが、中学二年生にもなった今は、むしろ故郷の短くボロい電車が懐かしかった。
時折車窓に映るぼけっとした自分の顔は、何ともコメントに困る可もなく不可もない造形。だというのに感じる周囲からの視線は、やはり身に纏う制服が原因だろう。
時刻は午前十時過ぎ。平日。
本来であれば、この時間は校舎の中でペンの1つでも握っている人種が、彼のような"学生"だ。
まだ高校生だというなら、ある程度時間に融通の利くパターンも考えられるが――それにしては、見てくれで分かるほどに彼の見た目は幼かった。
もう慣れたものだと、手元のスマートフォンに視線を落とす。
そろそろ到着する旨を告げれば、桃髪の少女が「了解っ!」と笑顔でVサインをしているスタンプが送られてきた。
またゲームキャラかよ、と口元をほんのわずかに緩めて、こちらも同じくスタンプを送る。
そうして顔を上げれば、次が目的の駅だった。
自宅の最寄り駅から、2つ。
定期圏内にあるその大きな駅は、その市と名を同じくするだけあって人の数も多い。
この時間でも席に座ることすら許されない都会の悲哀にももう慣れて、少年も停車と同時に外へと足を踏み出した。
夏服に代わったばかりの制服が、車扉を潜るなり温い外の空気を伝えてくる。
担いだスクールバッグには、せいぜいが着替えとその他小物。
学校に行くための用意など殆どない、すっからかんの様相だ。
エスカレーターを上がって、広い改札を出て。
複数ある出口の1つから、バスやタクシーが行き交うロータリーへ。
午前特有の、植物が元気になりそうな陽射しが世界を照らしていた。
「――さて、どこだ」
ぐるりと見渡して、目的の車を探す。
もう着いているだろうと思って、じっくり視線を巡らせてみれば――あった。だが、その車中には誰も居ない。
到着して、迎えにわざわざ改札にでも来ていただろうかと首を傾げた矢先のこと。
「なにやってんだあのバカ」
待ち人のはずの青年が、何故かタクシーの運転手らしき男性を相手に、じゃんけんでコーラを巻き上げていた。
「俺の勝ち。なんで負けたか、明日までに考えてきてください」
「くそぉ……くそぉ……」
膝から崩れ落ちる運ちゃんを見下ろし、コーラを一気飲みしてむせている男の背をどつく。
「なにしてんだよ」
「ゲェホゲェホッ……お? おお、来てたのか。はえーな」
背こそ高いが、体格は細め。長身痩躯という言葉がよく似合う彼は、そのひょろさを隠そうともしないTシャツ一枚とジーンズというラフな出で立ち。
へらへらと笑うこの男こそ、待ち合わせの相手。
もっと言えば、毎日のように転がり込んでいる家の家主。
名を、匂坂天童と言った。
――居場所が無い。そう思ったことはないだろうか。
特に、そう。
社会に出るまで。
つまりは、自分でお金を稼ぐことが出来るようになるまで。
およそ自由というものが縛られた中で語る世界、社会というのは酷く狭いものだ。
学校であったり。家であったり。もしくは、ぎりぎり習い事か何か。
おおよその人が、その何れかで社会を形成する。
たった3つだ。たった3つの世界なら、たとえば7割の確率で上手い具合に生活が成り立つとして――3連続で外すくらい、そう珍しいことではない。
彼――矢内総流という少年は、つまるところそういう人間で。
幼い頃を過ごした香川から、この東京へとやってきて。
妙な居心地の悪さから、なんとなく浮くようになって。
もともと家庭も大して良い関係とは言えず、居場所が無かった。
そんな折に見つけたのが、この大きな駅をたまり場にする騒がしいはぐれ者たちで――彼らを纏め上げ、兄貴と慕われているのが、目の前で今ゲームのセッティングをしている、匂坂天童という青年であった。
今年で20になり、大学にも通ってはいるようだが。
彼が大学を理由に友人たちの付き合いを断るところを、総流は見たことがなかった。
「うっし、こんなもんだろ」
総流の生活は、基本的にはこうして昼前に天童のマンションへとやってくることから始まる。
学校へ行く体で家を出てからの二時間は、適当に借りた本を駅前で読むなどして潰したのち、このくらいの時間になって起床するらしい天童の家でゲームをして遊ぶ。
そして夕方近くになれば、バイト漬けの高校生だの、メジャーデビューを目指すバンドマンだの、その辺で怪しい石ころを売り捌く自称宝石商だの、手フェチの占い師だのがこぞって駅前に集まり、たまり場でわいわいと騒いでいるのが日常だ。
バイトも出来ない中学生の総流は、こうして昼を兄貴分である天童とともに過ごすのが常だった。
「しかし珍しいな、総流の方からゲーム持ってくるなんてよ」
「俺はそれより、格ゲーって聞いた瞬間にアケコン買い揃える兄貴にびっくりだよ」
「そりゃおめー、遊ぶからには万全な状態にすんのがデフォだろうが。やー、格ゲーってやってみたかったんだよ。ゲーセンはやろうとする度に何かこう、よく灰皿が飛んできてな」
「あんたのことだから無自覚に煽ってんだよどうせ……」
リビングルームのそこそこ大きな70インチのモニターに、ゲームセンターでよく見るような筐体を模したコントローラーを2つセット。
天童の家は、1人暮らしの癖に2LDKと随分広く、またマンションの高層階ということもあり見晴らしも良い。
本人曰く、「お前のようなヤツがいつ転がり込んできても良いように」とは言っていたし、現に夜中のバカ騒ぎはだいたいこの家でのこと。
どうしてそんな金があるのかは、相変わらず答えてはくれなかったが。
広いリビングのローテーブルにアーケード用コントローラが2つ鎮座。氷の入った、麦茶のグラスも2つ。
ついでになんとなくポテチを置いて、早速ゲームを開始する。
「んで、なんでまた格ゲーなんだ?」
「今聞くのかよ。いやほら、兄貴の家にあるRPG、だいたいやっちまったろ」
「食わず嫌いが結構残ってるけどな!! クソゲーって言われるもんにだって、きらりと輝く最高な要素が――」
「だからといってローディングの度にデータが消えるかどうかのガチャなんざやりたくねえんだよ。古すぎるだろ、なんだあのコンシューマー見たことねえよ」
「PCエンジン」
「しらねえええええ!!!」
「そうだよな……お前、ドリームキャストも知らねえもんな……」
やれやれと首を振る天童に、あのな、と一言総流は呟く。
「その間、兄貴はパソコンで何かやりながら時たま画面見るだけだろ? 退屈じゃねえかと思ってさ」
「バッカおめー、初見で知ってるゲームやってるヤツを後ろから見る楽しみは――」
「そうは言うけど、やる方が楽しいだろやっぱ」
「んー……諸説あるが、やるのも楽しいな」
「だろ?」
そう言うと思って、と総流はパッケージを取り出した。
総流自身もそこまで格闘ゲームが得意ではないが、別に身内と遊び楽しむのに得意不得意は関係ない。
そしてもう1つ、このゲームをチョイスした理由もあった。
「"スペクタクラ"ねぇ」
「聞いたことねえの?」
「あるぜ。俺の格闘ゲーム知識はこれとスマブラくらいのもんだ」
「やったことねえのに知識って言っちゃってるあたり、浅さを感じさせるな……」
「スマブラはやったことあるっての」
画面にはオープニングムービーが流れ出している。
慣れた総流はスキップボタンを押しても良かったのだが、この手のことを飛ばすと隣の男がめちゃめちゃ煩いのもよく知っていた。
案の定、ただかっこよくキャラが動くだけのオープニングを、食い入るように眺めている。
「……良いな。かっけえ。あとちょっと気になったんだけど」
「どうした?」
「いや、オープニング歌ってる歌手に心当たりが――」
「この手のことになるとほんとすげえなあんた」
唖然としながらパッケージを手渡す総流。
すぐさま天童はそれを裏返すと――気付いたようにニッと笑った。
「なるほどなーー!! 制作会社がグリランと一緒なのか!! それで俺にわざわざ持ってきたって訳か、ニクいことするじゃねえの!」
「それだけじゃねーよ、見てみ」
「お?」
ほんの少し得意げに、総流は画面をキャラクター選択へと移す。
瞬間、天童は目を見開いた。
「――ライラック・M・"ファンギーニ"、だと……? 身内か!?」
「いや知らねえ。多分、兄貴みてえなのがこういう反応するのが楽しいんだろ」
「くっそ、RPGじゃねえのが悔やまれるなあオイ」
スマブラ同様、小さなキャラクターアイコンが無数に並ぶ選択画面。
多くのキャラクターが、それぞれ個性的な得物を手に身構えている。
「おうおうキャラ立ってんなあ」
「兄貴どいつが良い?」
「ん、そうだな……」
ぐりぐりとスティックを動かして、天童は少し考える。
そして。
「お、こいつが良いや」
「だろうと思ったわ」
天童がカーソルを合わせたのは、拳を握りしめ、肩に槌斧を担いだ豪快な雰囲気のする青年。
――イズナ・シシエンザン。
「俺は誰にしようかなっと。別に誰でも良いんだけど」
上から順番に、様々なキャラクターを選択画面に映していく総流。
様々なキャラクターが顔を揃えていた。
エストックのような細い剣を手にした麗しい少女。
無骨な直剣を握る貴公子然とした青年。
両手に鉄の鐗を握った、ロマンスグレー感漂う男性。
十字鎗を構えた可愛くも美麗な中華風の少女。
「しかし見栄えするラインナップだな」
「だろ?」
「お前は基本的に誰使うの?」
「あー、使い込んでるヤツかー。まあ今日は使わないけど」
こいつだな、と総流がカーソルを合わせたのは、長い刀を構えた、勝ち気な雰囲気のする少女だった。
「……よわそう」
「言ったな!? ボコボコにすんぞ!?」
「やっぱ男は強そうでなんぼだろ」
その数秒後、イズナ・シシエンザンはリーフィ・リーングライドにボコボコにされた。
「おのれ……!!! こんなこと……許されない……!!」
「兄貴どんだけ見た目で舐めてんだよ!」
「いやだって、絶対負けないだろこんなん」
画面に映る2人を見比べて、ぎゃーぎゃーと不平を漏らす天童。
「まー、確かに設定上は負けないけども」
「え、設定とかあんの?」
「そりゃあるだろ。制作元はRPG屋だぜ?」
「待て待て待て待て、一瞬で興味沸いてきた」
思わず姿勢を正す天童に、総流はカーソルを合わせた1人のキャラクターを選択するのではなく、詳細を表示させる別のコマンドを入力した。
すると、繰り出す技の上に、キャラクターを説明するフレーバーテキストが現れる。
「おーー!! こういうのあんのかよ!」
「そりゃスマブラと違って、オリジナルの作品はまずキャラを知って貰うところからだからな」
「そりゃそうか、そりゃそうだな!」
俄然テンションを上げた天童がフレーバーを読み込み、ふと声を上げた。
「なあ、この"天下八閃"ってのは?」
「あーそれな。この舞台になる王都アイゼンハルトってのがあんだけど」
「なんて????????????」
「王都アイゼンハルト」
「……これも、ファンサービスなのか……??」
首をひねる天童。
致し方の無いことではあった。先ほどから、名前に聞き覚えがありすぎる。
「そこで初めて闘技場を立てようってところから話が始まってるんだけど、その前に別の闘技場で活躍してた凄腕の連中が居る、ってのが"天下八閃"なんだ。実際上手く調整してんのか、そいつらはオンラインで見る頻度も多い」
「つまり、使いやすくて強いってことか」
「そういうこと。たとえば初心者向けのキャラだとこういうのがいるんだけど」
総流がカーソルを合わせたのは、リヒター・L・クリンブルームという、直剣を握ったキャラクター。
「そのままオンラインに潜った初心者が、だいたいこいつに狩られてる」
「アイルーン・B・スマイルズ……」
「こいつの《鎮魂歌》って技が、まあ相手をもみじおろしみたいに顔面からすりおろす技なんだけど。よくそれ食らってる初心者リヒターの絵面が面白くてもっぴーって言われてる」
「へー。もっぴー」
その情報を知った上でこの貴公子を見ると、なるほどどこか幸が薄そうに感じられた。
アイルーン・B・スマイルズ、というのも"天下八閃"の1人のようで。
黒のリボンで纏めた波打つような金髪。
ビキニの水着のような出で立ちに、武骨な手甲足甲。
脇腹に彫られたIBという刺青。
意志の強そうな、切れ長の瞳。
天童が好きなタイプの、カッコいい女であった。
「へえ、武器持ってないっぽいけどこのお嬢さん」
「あ、こいつステゴロ」
「100年前から好きでしたー!!」
すぐさまアイルーンを選択する天童に、総流は苦笑い。
「こいつ使うの相当練習必要なんだよなあ……」
「そうなのか?」
「単純にリーチが短いっていう弱点の大きさを教えてやる」
そう言って、総流が選んだのは十字鎗の少女プリム・ランカスタ。
「天下八閃・陸之太刀……じょ、序列が上だからって勝てると思うなよ!!」
「ちなみにさっき兄貴が使ってたイズナはこいつらより上な」
「うるせえ!!」
その次の瞬間、アイルーンはプリムにめっこめこにされた。
「おのれ……!!!」
『――悪いけど。お前にだけは、負けないから』
「……お?」
随分と、天真爛漫な雰囲気のする少女だと思っていたが。
どうやらアイルーンとやり合う時には専用台詞が仕込まれているらしい。
「その辺も因縁が幾つもあって、相手によって色々と変わるのも兄貴には刺さると思ってさ」
「……いや」
笑って言ってみれば、しかし天童は微妙な顔。
彼の分析をはき違えたかと首を傾げてみれば――しかし彼は首を振った。
「じゃあRPGでやりたかった」
「ブレねーなーこの人」
「絶対物語あるじゃんこれ!! 設定のフレーバーだけじゃ足りねえよ!!」
「一応ストーリーモードはあるよ」
「ほう、ストーリーモード!! 良い響きだ!!」
選択画面から戻って、対戦モードからストーリーモードへと切り替える。
「基本的にストーリーモードでエピソードを終えたキャラがプレイアブルになるってのがこのゲームの流れなんだけど」
そう言って、くるくるとメリーゴーランドのように回転するキャラクターたちの立ち絵。それらには必ずCLEAR!の文字が躍っており、なるほど彼らの物語が存在することを教えてくれた。
「へー……じゃあこいつらを順番に解放して、あの選択画面の数になるわけか」
「まだDLCとか来るらしいし、俺が一番使い込んでるキャラは家庭版参戦してないから、その辺は楽しみだな。ストーリーモードは家庭版から始まったんだ」
「ほー、そいつぁいいや」
いそいそとスマホを取り出す天童。
「なにしてんの?」
「ポチった」
「早くない!?」
そこに物語があると聞けば、居ても立っても居られない男。
それが匂坂天童という男であった。
「俺は匂坂天童。浪漫を愛する一匹の男さ」
「黙ろうな」
キメ顔の天童を一蹴して、もう一度対戦モードへと画面を切り替える総流。
「んじゃ、兄貴がストーリーモードちゃんと戦えるように、少し指南でもしていきますかね」
「っしゃーっす、師匠しゃーっす!!」
「うぜぇ……」
さて。と改めてキャラクター選択に移る2人。
「円月輪使いとか二鎗使いとかいねえの?」
「なんでそんなピンポにニッチな……」
「居るかどうか聞いてんだよ!」
「家庭版には居ねえ」
「ってことはDLCに期待がかかるな……!!」
天童の趣味は分かりやすい。
男だろうが女だろうが、見た目が"カッコいい"それに尽きる。
そういう意味でも、初心者向けという意味でも、あの貴公子はうってつけだった。
「よーし、じゃあ今日はこいつ使い込むぞー」
「リヒターか。……そうか、今日はボコボコにされ続けるってわけだな……」
「お前見てろよ!? 一勝くらいもぎ取ってやるからな!!」
そうしてしばらくプレイして。
無数のリヒターの骸が転がった頃。
「そろそろキャラ選ぶのも難しくなってきたなー」
ある程度色んなキャラがリヒターを殴り続け、総流が使っていないキャラクター、というのも限られてきた。
どんなにボコボコにされても、腐ることなくゲームを楽しむ天童の姿勢は、ある種尊敬に値すると思いつつ。
最初は手加減しようとしていた総流だが、つい興が乗ってひたすら2タテし続けて。
ボコボコにされて満身創痍の天童は、疲れ果ててローテーブルに突っ伏していた顔を上げると呟く。
「じゃあランダムとかで良いんじゃねえの?」
「ランダム……あー、その手があったか」
「んぁ?」
そうして初めて総流がカーソルを合わせたのは。
フウタ・ポモドーロ。
「なんだこのパッとしねえとっぽい兄ちゃんは」
「世界最強」
「――いやお前、最近流行りのネット小説じゃあるまいし」
「あー、そういうんじゃなくてな」
まあ、見りゃ分かるか。
そう呟いて、総流はフウタを選択した。
「お? 同じ武器使うんか」
「いや?」
そう言うが早いか、総流は天童と全く同じコマンドを入力する。
同時に放たれる刃は、お互いにのけぞる判定。
首をひねる天童に、総流は言う。
「このゲームのランダムは特殊なんだよ。ってか、このフウタってキャラがランダム扱い。相手と全く同じコマンドに変わるんだ。まあ体格差でフレーム数とか細かく違うとこもあるけど」
「へー。そりゃまた」
「だから」
と告げて、リヒターを吹き飛ばす総流のフウタ。
「――フウタ使いは、"世界最強"ってわけよ」
「あー、なるほど。全部のミラーに勝てるヤツってことだもんな。なんだそれすげえかっけえな。なんだフウタって。レッサーパンダみてえな名前しやがって。カッコいいことするヤツなら、自分のカッコよさに責任持てよ」
「どんな悪態だよ」
ぶちぶち文句を言いながら、タコ殴りにされる天童であった。
「じゃあ、フウタVSフウタはどうなるんだ?」
「ああ、それはまたちょっと特殊でさ――」
17時になると、鐘が鳴る。
市なのか、都なのか。それとも、全国的にそうなのか。
一日の終わりを感じさせるその鐘は、この二人にとっては始まりとも言えるものだ。
そろそろいつものメンバーが、いつものようにたまり場に集まり始めている頃だろう。
約束をしているわけでも、連絡を取ったわけでもないが。
行き場のない連中が、今日もきっとあの場所で馬鹿をやっているに違いない。
「うおー……めったくそ負けたー」
大の字に転がった天童に、総流はソファに寄りかかって苦笑する。
「まあでも最後の方はだいぶ俺も危なかったし、ストーリーモードやる分にはもう大丈夫だと思うよ」
「お、マジでー? そんならまあ、良いわ。明日には届くし」
「はえーな!?」
立ち上がり、何となく身支度を始める。
総流も、この家で過ごすように持ち歩いている部屋着から制服へともう一度さくさく着替えて。
適当な会話の中で、総流はふと気付いた。
「あ、でもそしたらさ」
腕時計を身に着け、夏用のジャケットに袖を通す天童の背に、声をかけた。
「明日は俺が、後ろから見てるよ」
「お? 良いのか? 一緒にやる方が楽しいんじゃねえの?」
口角を上げ、キーケースを懐に仕舞う天童に、総流は首を振った。
「兄貴。初見で自分の知ってるゲームやってるヤツを見るのは、また別の楽しみがあるんだぜ」
そりゃそうだ、と天童は笑って部屋のカードキーを手に声を掛ける。
出かけるぞ、とその一言に頷き、連れ立って部屋を出て行く。
何れ片方は駅のホームから転落し、まさかのRPG世界へ向かうことになって。
何れ片方は妙な力の働く学園で、生まれて初めて楽しい学生生活を送ることになるのだが、そこはそれ。
彼らの今は確かにここにあったし、なにより。
楽しい"スペクタクラ"は今後、彼らの身内でやたらと流行り、盛り上がることになる。
圧倒的に楽しい今を提供する。
それこそが、"闘剣"の醍醐味だ。
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※藍藤作品初心者向け
Q.つまり俺チャンはゲーム世界なの?
A.違うよ。この制作会社が"別世界を受信する能力"を持ってるんで、俺チャン世界の方が先だよ。
Q.こいつら誰?
A.匂坂天童……『グリモワール×リバース』主人公。
矢内総流……『幸運なバカたちが学園を回す』主人公。
そして、あの、熱すぎません?これ。確かにRPG要素持ちの格ゲーにして欲しい…。
そしてみんな大好きシュテン君もいるし…!
名前確かに色々聞き覚えあるな???って思ってたけど、え、ファンサだったんすか。
いやほんと、ファンのツボわかっていすぎだし、きっと先生の大好きなことを書いてくれるのがきっと俺らが大好きなんだ。
これからもずっと応援してます。本当にありがとうございます!!!