2021年11月25日 (木) 23:39
大変ご無沙汰しております。
や、本当に申し訳ありません。
経過報告など無しにこうして更新が途絶えていたこと、申し訳なく思っております。
生存報告をするにも、数多の仕事を片付けて六章のめどが立ったり、報告するにも短編などの何かしらの成果を用意しなくてはと考えながら、ずるずると引き伸ばしてしまいました。
ってことでこちらでは少し、『俺チャン』本編<11/26 11:00更新分>の前書きの補足をさせていただければなと思います。
俺チャン執筆以前の活動報告から、いくつかの生存報告系統の活動報告で記載しています通り、なかなか最近は趣味の執筆が出来ない状況でした。
俺チャンに関しても一章の段階で切り上げる予定だったのが、出版社さまからのオファーをいただいて『お仕事』になったことで、「ただ自分が好きで書き始めた作品」をこうして続けることが出来ました。
本当に、そこまで押し上げていただけたみなさまに感謝しております。
なんですがまあ、書籍二巻発売くらいのタイミングで、「出せて三巻だろう」という目測が出版社さんの方で立ってしまい、そうなってしまうとなかなか他の自分の仕事を押しのけてこの作品を更新するのが難しくなってしまったという次第です。
ただ、その間も杠先生のコミカライズが大人気!!
コミックの方がしっかり伸びてくれているらしく、今のところコミックは打ち切りの心配なく進めていけるそうです!
本来原作小説が無いとそこで止まってしまうのですが、まあこれは原作小説がWEBにあるからね……!!!そして書き続ければ無限に増えるからね……!!
なので、コミカライズそのものの人気で、『俺チャンの更新はお仕事のうちです!』とまた許して貰える形になりました。
(正直な話、許す許さないというよりは、ボク自身の信用問題なので、こういう言い方はちょっと違う気もするけども)
といいつつ、スケジュールはがっつり埋まってしまっているので六章を本腰入れて執筆するのもまた難しく、ちょっとこの形で少しお話を増やしていこうかなと思いました!!
動くめいどーが本当にわちゃわちゃしてて可愛い、そんなコミカライズのリンクはこちらから!!
少年エースプラスにて!!
まあうん、コミカライズの担当さんが、「これ小説より漫画向きですよHAHAHA!!」とか頼もしいこと言ってたんですが、マジでその通りになったな……という達観もありつつ。
これからまた、開き直って短編からぽつぽつ更新再開していきますので、どうか、気長にお待ちいただける方だけでも何卒よろしくお願い申し上げます。
ってことで、こちらお詫びの短編になります。
『火の中で爆ぜる刹那を』 メイドさんの短編
――寒いのが、苦手だった。
元々自分の身体が寒さに強く出来ていないのか、それとも個人的な我慢強さの問題か。
人間の身体について詳しいわけではないから、事実は分からない。
けれど、少なくとも自分自身の持つ感覚として、暑さよりも寒さが苦手だった。
理由を付けようと思えば、幾らでも挙がる気がする。
中でも1つ感傷的なものを挙げるとすれば、人には温もりというものがあって。
人肌に触れる温かさが恋しくて、でも手が届かないものであると割り切って、自分はその輪から外れているのだと諦めていた。
寒さにあって、暑さにない。その代表的なものといえば、必要な温かさ。
暑い時に人から冷たくされても、別に涼しくはならなかったから、もしかしたら違うのかもしれないと思っていた。
でも、人々が肩を寄せ合って、幸せそうに火を囲むあの光景を遠くから眺めていると、どうしても彼らは寒そうには見えなくて。
瞳だけが焼けつきそうになるのが、痛くて。
ただ耳を澄ませて、団欒と松ぼっくりが爆ぜるあの音だけが、彼女の胸を温めていた。
――寒いのが、苦手だった。
互いに互いを温め合う、あの優しい輪に入ることも許されず。
その温もりをずっと、知らない――欲しいものだと思っていたから、余計に。
このままなら、もういっそ、松ぼっくりになれたらいいのに。
たったひと時でも誰かに必要とされて、温かい輪の中で爆ぜて消える。
それでもいいと、思っていた。
――王城。中庭。
「め、めめ。め、めめ。め、めめいどぅん」
どぅん、という音とともに地面に散らばる沢山の薪。
時刻は昼を回り、夕刻を迎えて陽が落ちて。
もうすぐここを照らす何もかもが、窓から差し込む鉱石灯の明かりだけになる、そんな時間帯。
メイドさんは今日の仕事の殆どを終えて、一息ついたところだった。
「ん---さむいっ!」
小さく伸びとともにそう呟く彼女は、同時にぷるぷるっと震える。
箒をぺいっと地面に捨てて、集めた枯れ葉に目をやって、ふんすと腰に手を当てた。
「さて――ふぁいあーの時間だぜぃ」
落ち葉焚き。
それが、掃除を終えた彼女の今日の最後のお仕事。
正確にはあのヒモの世話という終わらない仕事が残ってはいるが、王城仕えのメイドとしての今日の仕事はこれが最後だ。
ぴゅー、と一度城の方に引っ込んで。
『ウワ!ナニヲスル!モウツヨビニスルノ!』
『めいどー!まだ平気!』
『ウワー!ドロボー!』
ぴゅー、と戻ってきた彼女の片手には、火のついた薪。
まるで松明のようになったそれを、彼女はそのまま落ち葉の群れへと叩きつけた。
「ふぉいあ!!」
威勢のいい掛け声とは裏腹に、ぱちぱちとじっくり枯れ葉に移っていく火種を、まんまるおめめで見つめるメイドさん。
「……さむいねー」
手をこすり、その枯れ葉の群れの前へとかざす。
近づけすぎると熱いけど、そこそこの距離を保てばあったかい。
目の前で、うっすらと枯れ葉の山から顔を出した赤い火が、彼女の翡翠色の瞳にちらちらと反射した。
かつて。
勝手にどこかで火を灯すことも、許されなかった。
明かりを点ければ、目を向けられる。
煙が漂えば、生を気取られる。
火に近寄れば、恐れられる。
だから自分に居場所はなくて。辛い寒さを1人、蹲って過ごしていた。
でも。
でも、思えば今は違う。
こうして火を灯すことが許されるだけで、彼女にとっては十分だった。
だから数年前から務めるこの城で、落ち葉焚きが一番好きだった。
「――お、1人で焚火かよ! ありがてぇ。おーさみさみ」
「めっ?」
振り返るよりも早く隣に並んだ少女が居て、メイドさんは少し目を見開いた。
帽子は深く被られて、そのくせっ毛に守られた耳は赤い。
寒いと言うのは事実なのだろう、当たり前のようにメイドさんの横で暖を取り始めた彼女に、メイドさんは声をかけた。
「はっぱ?」
「誰がはっぱだ誰が。やー、こんな時間までかかるとは思わなかったんだよ。なあ?」
そう言って、彼女は振り向く。その先に、呆れた表情の少女がまた1人、メイドさんたちの方へと歩み寄ってきた。
「あのね。いくらなんでも焚火に1人で突っ込んでくのは護衛としてどうなのよ」
「麺!!」
「誰が麺よ、誰が」
「ふへへ、お揃いだー」
「なにが。……まあ、葉っぱよりマシね」
「そうか!??!?!」
その短くなった赤い髪をさらりと払って、麺――パスタは煩わしそうにあゆみを進める。
もうずいぶんと髪型も馴染んで、毛先にも手入れがしてあるのか、枝毛1つなさそうだ。
「葉っぱと麺、大して変わらねえだろ……」
「あんた焚火で燃えそうじゃない」
「だから!?!?!」
そう言って、彼女もリーフィの隣に並び立って――さっとしゃがみ込んだ。
立ち上る煙を一度眺めてから、珍しく穏やかな表情で落ち葉焚きを見つめている。
そして、勝手に手近なところにあった薪をくべた。
「――懐かしいわね。あたしもよくやったわ、こういうの」
「へぇ、お前なら『さっさと野営の準備しなさい、ごみ共』みたいなこと言うかと思ったぜ」
「あんたの中のあたしってなんなの。言うなら雑魚共よ」
「でも言うんじゃん……」
呆れるリーフィをよそに、地面に咲く赤い花のような燃える焚火を横にパスタは続ける。
「あたしだって最初から何もかもを誰かに任せられたわけじゃないもの。野宿に煮炊き、色々やったわ。そんで……」
「そんで?」
首を傾げたリーフィに、パスタが何かを答えることは無かった。
1人でこうして焚火を眺めている時間だけが、唯一落ち着ける時だった――などと。そんなことを口にする理由はない。
「まぁただんまりだよ。おいコローナ。何とか言ってやってくれ」
「ん-。んー」
「コローナ?」
いつも騒がしいメイドさんらしくない、何かを言いたげで、それでいて何も言わない妙な感覚。眉をひそめたリーフィに、コローナも結局沈黙を貫く。
……だって仕方がない。彼女はたんに、自分の居るところに暖を取りに来た人が居た、それそのものに小さな衝撃を受けていたのだから。
「あー-----!!! 焚火だー----!!!」
「ぐぇ」
なんか聞こえた。
だだだだだ、と駆け寄ってくるのは王城に似つかわしくないシンプルな私服に身を包んだ長身の少女。十字鎗を背に、その穂先にもっぴー、ぬくぬくと暖を取りにかかる。
「やー、いいね! 私もさ、旅の途中はしょっちゅうやってたんだけどね。お屋敷には暖炉があるし、庭で焚火しながら鍛錬は万が一が怖くてさー」
「――あんた、よくこんなとこ来るわね」
「む……お前、焚火に隠れてちっこくて見えなかっただけだよ」
「あぁん!?」
突如始まる、焚火を挟んだ睨み合い。
「まあまあまあまあ!!」
慌てて割って入るリーフィである。
「あれきみは……刀使いの」
「あ、うん。そうだぜ――プリム・ランカスタ!」
「ふぅん……今からやる?」
ぶんぶんと、十字鎗の先のもっぴーごと振り回しながら強気な笑みを見せるプリムに、リーフィも鼻の下を擦って刀の柄に手をやった。
「いいぜ、やって――」
「やるなバカ。あんたが使い物にならなくなったら、あたし今日どうやって帰るのよ」
「負けるの前提!?」
「あんたをぼこぼこにしたリヒターをぼこぼこにしてるそいつ。なんで勝てると思うわけ?」
「うぐ」
そう言われると、賢いがゆえに何も言えなくなってしまうリーフィであった。
「ぼこぼこのぼこぼこにされるってこと?」
「やめろコローナ。その言葉はおれに効くんだ……」
「はっぱぼこぼこせんしゅけん」
「そんなもんに集うな!」
果たして誰が一番リーフィをぼこぼこにすることが出来るのか。
リーフィは少し考えて、考えてしまった自分に失望した。
「負けねえ、次は負けねえ! そうだろ、闘剣士ってのは!!」
「よく言ったね! よぉし、じゃあかかってこい!!」
「ぼこぼこせんしゅけんとやらにされているのは僕では?」
「違うでしょ。あんたはただの的」
「冷静に返さないでくれる???????」
それはもう、げっそりと落ちくぼんだ瞳をかっぴらいてパスタをただ見つめていた。
「プリム。まず一つ聞こうか」
「え、うん、なに?」
「なんでそんなに素朴に僕の質問を待てるのかがもうお前の生命体としての知能指数を疑わざるを得ないが……なんでこうなった?」
「リーフィが挑んできたから?」
「その前だね? 死ね」
「死ね!??!」
驚愕に目を見開くプリムの横で、なんとか十字鎗から襟を外したリヒターがべちゃっと地面に落ちた。それはもう、モップをバケツに突っ込むような音だった。
「なんで僕ここに連れてこられたの?」
「え。だって私、リヒターくんの護衛だし」
「???????????????????」
「私が焚火に来た時、リヒターくんだけ置いていくわけにいかないじゃん!」
ちゃんと護衛が出来ているとばかり、腰に手を当てて自慢げな顔。
「……なるほど。悪ぃなパスタ。おれにその発想がなくて」
「一生無くて良いわ」
枯れ葉がくっついた裾を払いながら、リヒターは大きくため息を吐いた。
「全く……こんな単なる火の何が良いんだか」
「えー、リヒターくん野営したことないの?」
「……」
リヒターは一瞬、言葉を自然に返そうとして。
その視界の中に居るそれぞれの顔を見て、首を振った。
彼らはみな、この焚火に何かしらの想いを抱えていることくらいは分かる。
それが決して、悪いものではないということも。
ならば――自分の戦時経験のろくでもない思い出など不要だろう。
「ふん、そんなもの貴族のすることではない」
「あー---! えーと……差別!!!!!」
「馬鹿が難しい言葉を使おうとするな」
鼻を鳴らしたリヒターが、その小さく燃える火にぽいっと薪を一本投げ入れた。
視線の先、珍しく大人しいメイドさんに一度だけ目を向けて。
「おや、焚火ですかな」
「めいどぉー!」
――さらにその先に現れた二号を見て、リヒターは帰宅を決意した。
「お!! 何に集まってんのかと思ったら焚火じゃねえか!! 俺はバカじゃねえからよ、分かるぜ。こいつぁこの国の祭りの祝い方だ!」
「マスター、違います。マスター」
振り返った先に、出口が無かった。
リヒターの道をふさぐがごとく、デカい図体がのしのしこちらへやってくる。
ならばと残った左右に目をやると。
「ほう!! 確かにこの中庭でバーベキューは考えたことが無かったな!! よし、今度ここを改築する時はそう――この場所をキャンプ地とする!!」
「あらぁ、パスタちゃんなのだわ! お久しぶりなのね~!」
うげ、という声がリヒターと被ったパスタ。
互いに睨み合い、真似すんなとアイコンタクト。
軽く咳払いしたパスタが、引きつった笑みを向けて新たな童女に手を振った。
「ぁ、あ~、久しぶりぃ……!!」
しかしここで、別方面からやってきた童女の表情が修羅と変わる――!!
「は?」
すごいシンプル!? と驚愕のリーフィを差し置いて。
突き進むロリと、笑顔で駆け寄るロリ。ロリのサンドイッチにされた偽ロリの行く末は――。
「マスター、あれはもうどうしようもないです。マスター」
「んぁ? まー、年下のダチと自分の妹とに挟まれたら、対処ってなぁ面倒なもんだからな。はっはっは」
「……理解ができません、マスター。マスターに、経験値が観測されました」
「ん? まあ俺も村じゃ同年代のアタマだったからな。そりゃまあ、遊んでほしくてぴーぴー泣くやつと、遊んでくれなくて拗ねるヤツが居て、やりたい遊びも違くてって寸法よ。俺はバカじゃねえからよ、分かるぜ。ガキはわがままなんだ」
「……マスター、それは」
「ん?」
「……前言を、撤回します」
「お? おーいモチすけ?」
ぺ、と肩から飛び降りて、モチすけは先にとことこと焚火に向かっていった。
なんだぁ? と首を傾げるイズナの横で、小さく笑う声。
見ればウィンドがそのロリの集まりに目をやっていて。
「子供は難しいですな」
「だなぁ」
小さく、そう呟くしかなかった。
――なんだろう、と思った。
目の前で、わいきゃいとパスタを囲んで喧嘩が勃発して。それを腹を抱えて笑っているヒューラ・ウォルコットに、どうしていいのか分からない様子のリーフィが居て。
複雑そうな顔をしたモチすけは、気づけばプリムの懐にぽすんと収まって焚火に当たっていた。一緒にイズナをやっつけるかどうかの提案は、今のモチすけにとっては瀬戸際の誘惑らしい。
遠くには穏やかに見つめる大人の二人。
見れば、薪はもうずいぶんと少なくなってしまった。
まだ終わってほしくないなあ――なんて、そんなことを想った自分に驚く。
「――くだらないな」
「め?」
顔を上げれば、横に腕を組んだ男が1人。
立ち上る煙の先、日が落ちたばかりの新鮮な星空を見上げて、彼女の感傷を「くだらない」と切って捨てた。
「いつもの調子はどうした。こんなにおもちゃがあるぞ」
「メイドのおもちゃはお前だけ……」
「そんなことある!?」
目をむくリヒターが彼女を見れば、しかしメイドさんは握った松ぼっくりをその小さな手で転がすだけ。
「くだらないって、何が?」
「たまたま、今日はお前の知り合いが多く王城にやってきただけだ。明日からはこんなことにはならん」
「……そーだね」
ぱちぱちと、薪の爆ぜる音。
「だから、今日が特別なだけだ」
「……ん、分かってる。別にメイド、それでしょげたりしないよ? へいき」
「そうか。だから何だという話だが」
リヒターは少し、目を細めた。
彼女の様子に変わったところは無い。
今日を彼女が特別なように感じ入っていると、リヒターにはそう見えた。
だからこそ、この先のことを考えれば――と思ったが、余計なお世話だったようだ。
ちらりと視線を交わした赤髪の性格悪そうな女が、目で訴えている。――"魔女"にまともな会話を求めたって無駄である、と。
それでも、とリヒターは顎に手を当てたが、首を振った。
栓無きことだ。
だって。
「おーい、みんな集まって何してるんだー?」
「……火刑に耐える準備だったりするなら、わたしも枕を高くして眠れるものですが」
「ライラック様、今なんて?」
「いえ、別に」
にっこりと微笑む隣の主。
まあ、貴女が笑っていられるならいいか! とあっけらかんとその男は大きく手を振った。
「……あ」
メイドさんの視線の先。
彼は、たくさんの薪を小脇に抱えていた。
「なんだ、みんなで焚火やってるなら誘ってくれればよかったのに」
「火の番、してた!」
「みんないるんだからちょっと抜けたっていいと思うけど」
そう、さらっと言われた言葉に気付く。
そういえば、みんな居たんだった、と。
「……それは、そう!」
「賑わってるなら、なんか美味しいものでもと思ったんだけどさ。いまいち思いつかなかったから、とりあえず薪持ってきたよ」
「そかー。フウタ様にしてはよくやった!」
「ははー」
「うむっ!」
心の底から楽しそうな彼女は、しかし珍しく焚火から目を離そうとしない。
最初は寒いからかと思ったフウタは、ちらりと隣にこれまた珍しい男が立っていることに気付く。
「……料理の前に、この冷めきったものをどうにかしろ」
「冷えきったんじゃなくてか?」
「ぴっ?」
問いとともにそっと手を触れれば、コローナの手は温かい。
きっとずっと焚火に当たっていたのだろう、それが良く分かる温かい手だ。
だが、リヒターはそれだけ言うと立ち去ってしまう。
正確には、プリムを焚火からひっぺがしに行ったのだが――それは強い抵抗にあって戦いは難航する模様である。
「……あの、フウタ様?」
「いや。そうだな、松ぼっくり入れないのか?」
「あー……まだ、いいかなっ」
手元で転がす松ぼっくり。
新しい薪を次々入れて、暖を取って。
コローナはぽつりと呟いた。
「みんな来てくれたんだ。特別な日っ」
「……特別か」
確かに、と顎を引く。みんながみんな、王城に居る日など殆どないから。
こうして集まったのは特別なことだ。
もし次に同じことがあったとしても、きっとこうはならないだろう。
でも。
「一度有ったんだから、またやればいい。それこそ、今度は呼んでもいいし」
「…………呼ぶ?」
「ああ。みんなでやろうってさ。こんなに、楽しいんだろ?」
「……来て、くれるかな」
「俺は行くな……」
「…………そっか。そっか」
呼んで、来てくれるなら。
この輪が出来なくても、輪を作ろうと思った日に作れるなら。
「……あったかいね!」
「そうだな。あったかいな」
ふ、と微笑むフウタの横に、そこでそっと銀が差し込む。
「あ」
コローナの持っていた松ぼっくりが、ひったくられるように失われて。
「……姫様?」
ぱちん、と爆ぜて、その松ぼっくりは役目を終えた。
おお、とみなが驚く声。それはたった一瞬のことで、すぐさま皆はそれぞれの会話の輪に戻っていく。
「――貴女を、ソレにするつもりはありませんので」
「……」
なんのことなのか、ヒモには分からない。
でも、少し寂しそうな顔をしていたコローナが、手元から離れた松ぼっくりの果てを見て、小さく口元に弧を描いた。
――なら、それでいいんだ。
「ん。分かった! メイドはもう……なりたいとも、思ってなかったよ」
「です、か」
――このままなら、もういっそ、松ぼっくりになれたらいいのに。
――たったひと時でも誰かに必要とされて、温かい輪の中で爆ぜて消える。
その一瞬は本当にあっという間で。
だからこそ、そんな風になろうとはもう思わない。
「姫様」
「はい」
「あったかいね!」
笑顔を向ければ、ライラックは一言呟いた。
「まあ――部屋よりは」