2015年11月15日 (日) 00:58
モンスターとか異形な種族の生態とか考えるの好きです。
そんなネタの中で、あるモンスターというか異種族というかの巣立ち、独り立ちネタが形になったので、そのシーンを一人称文章にしてみた。
……とはいへ、自分は余所で見たことはないけれど、アイデアの組み合わせ自体は順当だと思うので、先駆者がいても驚かない。 あと、スカイスポーツとかカイトスポーツを参照にしているところがありますが、ろくに調べずに書いているので、実際にやっている人からすると、突っ込み所、満載であろうと思われる。
旅立ちの不安とかそういうのをにおわせられれば、とおもうたのけれど、状況描写にこだわりすぎてちょうとな、と。普遍的でないものを書き表すのって大変。どうしても説明臭くなります。
巣立ち直前で一体きりになったのの目線だから、会話パートもないといふ。
それでもよければよんでみんしゃい、ということで。
モンスターの種類は暈かしてあるので、何だろうと思いながら、どぞー
>
寒くはあるけれど、空飛ぶ蜥蜴や大きすぎる鳥の少ないこの季節。
今日の風は、少し強めで、でもとても安定したもので、抜群の旅立ち日よりと言えるのではないでしょうか。
お母様とのあいさつは、昨日のうちに既に済ませてあります。
最初の準備作業は、あらかじめ作っておいた巣立ちの座、四方からの索で固定された木によじ登ること。
他の木よりもいっとうに高い高木のてっぺんからは、母の治める広大な縄張りが一望できます。とはいっても、見えるのは木々の梢とそこに取り付けた白い吹き流し。それらの下にある天幕や泉や倒木や、思い出のある広場などはみることができないのですが・……。
……緊張してますね、深呼吸、です。
次にするのは、装具と道具の点検。水袋に、携帯食、風を通さない防寒具、それとナイフ。背中にのる背負い子はいくつもの帯で固定されていて、その上には袋に収納された“翼”。これは、いまここで点検するわけにはいきません。あれだけ丁寧に地上で点検しながら折りたたんだのです、たぶんきっと、大丈夫でしょう。
持っていくものと、今ここで使うもの、一通りの点検を終えると、翼を広げるための凧を上げる準備を始めます。
凧といっても、大きさは私が手を広げたのよりも大きいもの、いったん揚げてしまえば持ちあげる力が強くて下げるのもひと苦労、事前準備はしっかりとしておかなければなりません。
凧の組み立ては予行練習通り、繋がる糸の端はチチワ状に留めておき、その輪の中に強度の弱い“捨て糸”を通します。この長さも事前に測っておいたもの、翼に対して短すぎては翼が広がらないし、長すぎれば飛翔したあとも凧を引きずることになり、翼が制御できなくなってしまうのです。
次に、収納袋から翼の端を少しだけ引き出します。ちゃんと取り付けポイントが一番上に来ていることを確認。大丈夫。捨て糸の両端を、左右間違えないよう気を付けながらポイントにくっつけました。 ここからが、予行練習では行わなかったところ。 本番、です。 うん焦らない、深呼吸。
風向きを見て、凧を揚げます。うん、順調。 風も、やっぱりいい感じ。
捨て糸の手前、ちちわの所まで糸を送りだしてしまいましょう。
すごい“引き”ですが、無駄に多い足でしっかりと座に捉まれば飛ばされることはありません。
凧を安定させればあとは、風待ち。凧を支え続けるのも大変ですから、座に固定されている索に留めておきましょう。
風上の木々に結び付けられた吹き流しに目を凝らしてしばらく、森の向こうのそれが、いい感じになびいくのが見えました。
翼を開くのに、良い風が吹いて来たようです。 その風が到着する前に、凧糸を解くと、ぐん、と凧が上昇します。糸を緩めすぎて落ちないないよう、手袋越しに張力をかけて―― 風がたどりつく寸前、捨て糸の半ばのところで手を放します。凧に引かれ、収納袋の中に折りたたまれていた翼が引き出されて――
ぶわり
風を受け、翼が展開しました。 帯のように長いこの翼は、長い二枚の大布を重ね、その間に長辺を横断するように布で仕切って小部屋を作り、正面を除く三辺を留めたもの。翼といいつつも、見た目は横長の凧と言った方が判り易いかもしれません。
布の間の小部屋に空気が吹き込まれ膨らみ、その力が翼を広げます。 上方から、ぶつんという、なにかの切れる音。 翼に遮られて見えませんが、翼の開く力に負けて、捨て糸が切れた音でしょう。 これであの凧の役割はおしまい。文字通り糸の切れた凧となり落ちていくのでしょう。あれには、これまで育ててくれたお母様に宛てたメッセージを編み込んでおきました。無事に届けばいいのですが――
それを思う間もなく、開ききった翼から下りる綱が私の体を吊り上げました。
ぎしり
ですが、まだちょっと高さが足りないのです。
私の体はちゅうぶらりんですが、身に付けた装具が先ほど凧糸を留めていた索とつながりて軋みを上げます。
この木が、他の木よりももっと高いものであれば必要のないものだったのですが…… 愚痴を言っても始まりません、索と装具とをつなげているのは、ごく単純に摩擦の力、これを少し緩めてやれば、翼の力で高度は上昇して行きます。
張力を緩めすぎて落下しないよう、少しずつ索が繰り出して。索の端まできたところであたりを見ると、高さはすでに元の十数倍も近いところにありました。 地上からは見えなかった、お母様の縄張りの外、海や遠い人間の集落さえ、小さくではありますが見ることができました。 ここが、私の生まれた場所、だったのですね。なんだかわからない感動が、身をふるわせますが。私はここを去らねばなりません。
また強い風が吹き、体が持ち上げられるのに合わせ、索を締めていた装具を外します。
あとは、この風に乗って運ばれるだけ。私はどこに運ばれるのでしょう。
上を見上げれば、翼から垂れてブランコのように私をつるす綱の束と、お母様に教わりながら一目一目、編み、織り上げた翼の姿が目に入ります。あの布の模様や目には、私たちの種族が、代々蓄積してきた知恵と知識と歴史の、その全てが模様として記録されているのです。あれがある限り、二度と会えないだろうお母様とも、会ったこともない御婆様や曾御婆様とも、私は繋がっているのです。
きっと、これさえあれば、どんな土地でも大丈夫。
胸に宿る不安を希望に変えて、いつかたどりつく新天地に想いを馳せます。
タイトル>飛行姫蜘蛛 ということで ラミアやヤスキュラやハーピとちゃって、オリジナルには人を煩わせるような描写ないにも関わらず、恐ろしい怪物設定デフォルトなアラクネちゃんの巣立ちでございました。
異形畸形っぽいポイントを描写できず。ごめんなさい。
参考や元ネタ調べたことは
蜘蛛のバルーニング(雪迎え)
凧を使った伝統釣法(改変多大)
パラグライダー(経験者からの、ここおかしい指摘、大歓迎)
カイトスポーツ(同上) など
……無意味に作り込み過ぎな気がします。
天から舞い降り、編んだり、粘着糸で接着すれば、縫い目のない衣が作れる…… 東洋では天女と呼ばれる存在になったりして、とか思う。
もったいないから上げては見たが…… このアイデア、活用できる方いましたら…… 御好きにどうぞェ。
ふふふ、rururaさんのアラクネ、非常に楽しみなのですよふふふふ……。
まぁ、精神的安定を保てる範囲でお願いしますが(笑)
これの執筆に至った理由の一つに、rururaさんいぢめがありましたり。
あとは、なんかアラクネさんの扱いが怪物扱いな作品を短期連続で読んだこと?
最初に読んだアラクネの逸話が、なんかめちゃくちゃ彼女に肩入れした物語だったせいで、あまり怪物だとは、思えないですよねぇ……
>夜桜さま
はい、実はアラクネ、ギリシア神話(オリジナル)の方だと、蜘蛛という蟲の起源、みたいな扱いで、モンスターでも何でもないんです。
この子のその後、ですか…… あくまである種族の生活史の、一部を切り出しただけですしねぇ……。この個体が無事新天地にたどり着き、自立できるかまではわかりません……
飛行系クリーチャーにおそわれるかもしれませんし、海に流されて戻れなくなってしまうかもしれません。
以下、個人的妄想に基づくいろいろ
臆病で穏和、彼女たち自体は友好的な種族であると思うのですが、姿が他種族から嫌悪されやすく、他の凶暴な蜘蛛系クリーチャーと誤認されたり混同されたりで人間との協調関係の獲得は難しいでしょう。エルフあたりは食糧を巡る競合関係にありそうですし、ファンタジーRPGのお約束通り、糸は高級素材として無頼の輩にねらわれます。
同族であるアラクネの縄張りに着陸した場合でさえ、情はあれど食糧の関係上最終的には旅立たなくてはなりません。 前途は多難にございますですよじつは。