2020年10月21日 (水) 16:16
ついカっとなって書き散らかした。推敲はしない。
場外乱闘1 ボークレイグ領にての後で深海の国の前。
-------------------
米取引と指名依頼・着せ替え人形(春夏コレクション)を一通り終えた白猫ことオシノビ中のシャルは、結局のところ最初の米収穫過ぎまでボークレイグ領にいた、らしい。
らしいというのは、あっという間に公爵邸から出て行き、しかし田起こしやら田植えやら刈り入れやら要所要所でひょっこり現れては手伝いに来ていた。どうやら領内や近隣領で課題をこなしてたようだ。
…まぁ、泥で足を取られてこけたり、日差しで逆上せたりして、木陰で休んでる間に半分以上はスライム達がやっていたとも言うけど。
(スライム達へのお礼はシャル手製のチャーハンだった。厨房の使用許可と既存米の催促があった。)
「そういえば…護衛騎士達がシャルを探し回って、全然捕まらないと喚いていたよ?」
「あー…例の戦隊指導話ですね…取引事項にも依頼内容にもないのにやる訳ないじゃないですか。」
「そうなの?」
「そうなの」
指名依頼・着せ替え人形(秋冬コレクション)で母上に玩ばれた後、ぐったりした体を白いスライムに抱えられながら、来客用の部屋へ案内すれば、扉を開けたその先でカラフルなスライムに拘束され藻掻く護衛騎士達がいた。
すぐさまメイドを通じて執事長を呼び出し、対応が決まるまで拘束室で反省させるよう言付け、回収させた。
「すまない。ウチの者が大変失礼した。…客室で待ち伏せとは、行儀が悪すぎる。処遇も含めて考えものだな。」
「ここはボークレイグ家ですからね。我が家流で彼是やってはいけないと思いまして。私は逃げの一手に決めてます。」
アシュリー領での特訓で参加した者の一部、及びその話を聞いた護衛騎士・警邏隊・傭兵稼業の間で、ヴァルク殿の指導とシャルが言った戦隊ヒーローがごちゃまぜになって、いつの間にか『見た目は仔猫だが、素晴らしき指導者』という謎な噂が流れていた。
見た目しか合ってない。
いや、仔猫…オシノビのため白猫フード常用だからいいか。
「スパイスが効いた稀少薬のような特別な訓練て…どこかで厨房部と薬剤部も混ざってる気がするね。」
「どこの伝言ゲーム…!」
「伝言ゲームってなに?」
風の噂が独り歩きして、囃し立てられ、前回みたいな追っかけから今回みたいな待ち伏せ等、創意工夫もヒネリもあまり感じられない歓迎を受けたものの、他家であるため、相手にせず避けて避けて逃げまくってるらしい。
正解だと思う。
「というか、『強い=ヒーロー』の考えが私の美学と相入れないんですよー」
「普通に考えれば、ヒーローは強いんじゃないの?」
「ノア様達が領政のどこにヒーローを置くかによりますけどね。私はインスタントでもきちんと味付けしたい派です。」
曰く、単に精鋭部隊なら騎士団主催の勝ち抜きトーナメント戦で間に合ってるとのこと。
強い者が勝つ。確かに腕力による順位は対外的にもわかりやすく、治安に一躍買っているが、アシュリー家では評価されないらしい。
では、評価点はどこか。何か。そこが抜けている。
「ヴァルクお兄様は、戦略ゲームも知能パズルもめちゃくちゃ上手なんです。」
「うん?ギルド関係でも、ソロプレイヤーとしてもチームリーダーとしても優れていると耳にしてるよ?」
「そう。だから自分だけ強ければいいというヒーロー像で満足するなら、我が領での日々は無駄になったということです。」
「あー…あー……。わかった。なんか読めてきた。」
ヴァルク殿ならどう育てるか、シャルならどう味付けするかを考慮すると、『強者=ヒーロー』という単純な味付けはわかりやすいが、すぐに飽きられやすい。取って変えられるモノを作っても、おそらく早々に他の者に奪われる。
あの家の人間はそういった仕事は好まず、それが持つ本来の才能・能力・特色・個性をどう紐解くか、特化させるか、『味』として活かすかを考える。
本来なら、参加した護衛騎士達がそこに気付き自ら発起しなければならず、そして、最初に相談するなら、アシュリー領の人間ではなく所属する我が領の人間であるはずだ。
そこを見落としているから、シャルは逃げて相手にしない。
完全に避けることで接触はなかったと言い切り、ボークレイグ家と次代当主の体面を守っている。
「ノア様からボークレイグ家として、こう組み込みたいって相談があれば動けるんです。でもそうじゃない。」
「…僕のところにもどういうカタチにしたいって話は来てないな。」
「そこですよ。子供だし舐められるのは仕方なくても、私、友達が軽く扱われるのは嫌なんです。」
『友達』
自分がやらかして好感度がマイナスを突っ走った出会いから数年。
シャルに『友達』とカテゴライズされる今の関係が、嬉しくも面映ゆくもある。ちょっと顔がにやけそうだ。
「まぁ、春の滞在で、ノア様に相談されなかった時点で、プギャーさせるのは決めましたけどね。」
「プギャーって何?」
「そのうちわかりますよ~ ねー、ケロちゃん?」
「わん!」
にんまりとイタズラを企む笑顔をして、年下の少女は新米を手にすると翌朝にはボークレイグ領を去っていった。
それから数カ月後、警邏隊で雑用係のヒョロヒョロしたヘッポコ見習い(新人)が、領内の農業に林業に魚漁等、広く浅く雑学と基礎実地を納めたと噂になった。
そして、ボークレイグ領の騎士団主催勝ち抜きトーナメント戦に初参加すれば、いきなりベスト8に入り込み、団に勧誘された。
地方の平民出身。
鮫に怯え、魔鶏に追いかけられ、暴れ牛に逃げ回る。
雑草取りと野戦料理と怪我の応急処置が上手で、迷い猫と迷子と失せ物探しがお手の物。
獣から逃げつつ、罠やローピングで仕留める器用さに、時折大胆に得物を用いて急所を突く。
外見が美麗というわけでもなく、しかし愛嬌のある顔(若干ヘタレ強面)で紙のようなバネのような雰囲気。
瞬く間に精鋭の護衛騎士に抜擢されれば、あっという間に領民に人気の騎士に成り上がった。
そんな護衛騎士(新人)を連れて、領内の離れた町へ視察中、路地で揉めに揉めていたゴロツキ集団に遭遇した。
周囲の町人たちへ「巻き込まれないよう下がってろ」と指示すると、たった一人で集団に立ち向かう。
すると、砂で目つぶしやら急所へ一撃昏倒にその辺にある物を武器にする等々、風のような動きと見事な喧嘩殺法で沈めた。
得物を持った右腕を大きく上げ、聴衆の喝采を得る姿にどこか既視感があった。
恐らく、あの動きを見たことがあるという護衛騎士がいて、今、気づいたはずだ。
「坊ちゃん、怪我ないですかい?」
「見ての通り無事だよ。町民たちも大丈夫そうでなによりだ。
それにしても、どこぞの侍女を彷彿させる、素晴らしい動きだったね。」
「ハイ。お嬢に言われまして。ヒーローは『スタートは激弱設定』・『負けそうなシーンで勝つ演出』・『みんなの共感と応援は必需品』らしいッス。」
「いやー、ナヨく見せるのは難しかったッス。お嬢を参考にすると瀕死になっちまうんで。」「トーナメントも騎士の剣技は苦手で、8か16で留まれるか心配だったッス。」「お披露目許可出て半年近く経ちますけど、護衛さんたち、気づかないモンなんスね!」とニッカと笑う騎士は、それからすぐに役目(ヒント)は終えたと職を辞し去った。
立つ鳥跡を濁さず。潔く、颯爽と。
残るは歩んだ道に刻まれた武勇伝のみ。
ならば、ここからは僕の仕事だろう。
魔族に施された小指の印をなぞり、見上げた空は青く澄んでいる。
遠く同じ空の下、どこかを旅する友達は、わかりやすい見本を教えてくれた。
尚、最後までヴァルク殿やシャルが言いたかったことに気付けなかった者たちは、その後、領政計画の見直しとともに設けたヒーロー選抜試験(学科もあるよ)の受験資格を保留にした。
床に蹲ったり涙を流したり地団駄を踏む者たちを見て、「プギャーってこれか」と理解した。
きっと「オーッホッホッホ!猪口才な!」といつもの悪役令嬢な高笑いをしてるはず。
おわり。