2020年12月10日 (木) 18:36
読んでも読まなくても変わらない?昨日のつづきー
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身体の損傷をある程度修繕し、そろそろゴーレム体の使い方を教える時期が来た。
蔓薔薇の使い方はできるものの、ゴーレムの扱いは全く知らず…そうだった元のヤツが動かないヤツだった。下手にやらせるとまたトンデモ状態になるので、一から丁寧に手取り足取り教える。
「すみません。御手を煩わせて…」
「いいってことよ。」
「よろしくお願いします。」
深々と礼をする。ほんと、腰の低い礼儀正しい子だ。
「あー、ティティアが想像してるやり方で、身体のパーツを外したり付けたり移動させるのはナシと考えてくれ。」
「はい」
「感覚は魔力の流れに沿って教えていくから。まずはお手本を…」
懸命に練習するティティアの姿を眺める。大きさは標準ゴーレムの三分の二もない。強度はもっと弱い。ゴーレム基準なら魔素不足の魔力不足の栄養失調で、全壊一歩手前は逃れたがまだ大規模半壊だ。
元の女神像が成長しなかった事もあるが、損傷と修復で削った結果、一回り以上小さくなってしまったらしい。赤子ゴーレムよりやや大きい程度で、魔族全体ではそこそこサイズだろう。
身体の作り方、外し方、付け方、増やし方、魔力の流し方、魔法の出し方、強化の仕方…置かれる環境ごと鍛える部分は違い、生活によっても変わる。
だが、おそらくティティアはこの住処から遠く離れることはできない。せいぜい身体のパーツを地を伝わせて移動させることくらいだろう。
大きな土魔法は使えず、馬力もそんなに出ない。修繕したとはいえ、ダメージは残っている。
口にしないが、本人も気づいている。
「あの、義足パーツはどうやって繋げればよろしいのでしょう?」
「あー、ちょい待ち。一人でやろうとすると慣れないうちは失敗する。入れてやるから感覚を覚えて」
「はい。お願いします」
太腿を支えて痛まないよう魔力を纏わせる。関節に合うよう位置を整え、ぐっと力を込めて入れれば。
「あァっ!」
…色っぽい声が出た。まじか。
「す、すみません!わた、わたしったら、はしたない…!」
真っ赤になったティティアに「アー、ウン、キニシナイデ、ヨクアル」と応えれば、ミスリル製ハンマーが飛んできた。クリーンヒットだな!
何故か影も伸びてきて吊るされた。なんでだ!
あ、すみません。その夜はオカズにしました。
◆◆◆
リハビリが進み、ベスさんを始めとした交流してる魔族やドワーフの話から、ゴーレム衆の中でもティティアの印象はだいぶ改善されてきた。
「てゆーか、みんな俺よりドワーフ爺の話を真面目に聞くってどうなん?!!」
「そりゃ、あれは孫みたいなもんじゃ!と偏屈妖精が魔族に気を配ってるんだ。何だ?ってなるさ~」
「深窓の令嬢、もしくは喪に服す未亡人…ンンっ、絵になるなぁ~ 装飾レリーフのモデルやってくれないかなぁ~」
「淑やか美人と聞いたけど、実際どうなんだ?」
「ん~~?」
ガヤガヤと賑わう大衆居酒屋で旧友ゴーレムと酒を飲みつつ、ティティアの姿を思い浮かべる。やはりツギハギだらけの傷ましい姿ではある。特に額の傷は酷い。
ベールと目隠しで覆い、てっきり穴を消したいかと思いきや、本人から残したいと聞いて、理由も聞いて、あぁ、こいつは生き方が潔いと思った。
「…まぁ、綺麗なヤツだよ」
ところが。
このうっかり俺が呟いた「綺麗なヤツ」を、聞き耳立てて都合よく変換し勘違いした大馬鹿者がいたせいで、その夜、ティティアの住処がご覧になりたい酔っ払いに突撃された。
騒ぎを聞きつけ駆け付けた時には、吸血鬼オルクと眷属のシャドウが、ゴーレムパーツをオーナメントの如く天井からぶらーんぶらーんと吊るしてた。俺、何もせず終わってた。
オルクがニッカニッカと犬歯を見せキシキシ笑いながら、簀巻き不届きゴーレムを突く。ニュー〇ンのゆりかご、またはカチカチ玉のように順にド突かれる振り子の岩製蓑虫。運動量保存則と力学的エネルギー保存の法則の実証実験か。
「あのさー」
「コレさー」
「魔王様に」
「俺が」
「任された子なの」
「指名なの」
「おわかり?」
「おわかりいただけない」
「あらぁん、ざんねーん」
「…何とか言ったらどうなんだぁ?!クソ野郎が!あぁ?!戯れてんじゃねーぞコラァ!!」
すんごいキレ方だった。
「いきなり押しかけてんじゃねーよ!相手の予定を伺うのが筋だろ!!」
「夜の挨拶は『こんばんは』で、訪問時は『ごめんください』だ!そんなことも知らねえのか?!」
「他人ン家の外でギャーギャー騒ぐんじゃねぇよ!昼でも夜でも近所迷惑だろうが!」
「今何時だと思ってやがる!深夜二時だ!お肌に悪ィと思わねーのか?!あぁ?!」
「良い子はウチでねんねしな!!!」
内容は常識的だった。
◆
結局のところ、ティティアは眠って休んでいて、オルクが暴れた吊るし騒動にも気づいてなかった。
リリィさんが防音防震に安眠魔法もかけてたらしい。運び込まれた頃から頻繁に不眠症状が出て回復遅れてたからな。
翌朝、「あら?部屋が広くなってませんか?」と聞かれたが、まさかオルクが天井や壁を抉ったとも言えず、「部屋ノ模様替エダヨー」と誤魔化した。
「まぁ!最近、魔族と妖精族の友達が遊びに来てくれるから嬉しいです。」
「広イ談話室ッテイイヨネー」
「でも、新しい家具はどうすればいいのでしょう。躓いて壊しても悪いですし…」
「ワシに任せとけ、蔓薔薇の娘」
「ドワーフのおじい様?」
「ついでに館内全体も改造する。バリアフリーではないぞ?ユニバーサルデザインってやつじゃ。ワシらも遊びに来るからのぉ!カカカ」
「ありがとうございます」
客室も増やした方がいいなと製図を描き始めるドワーフの腰には、オリハルコン製のバトルアクス。ゴーレム破片が付着してたのは見間違いではないだろう。
地下道へ続く玄関扉の外でオルクが寝ていることに気付けば、ティティアは起こすべきかでもよく眠ってるしとオロオロしてた。結局ノームが大樹様の落ち葉をふりかけ、痒い!と起きて騒いでた。
次第に笑える回数が増えて、他のゴーレムとも交流を持つようになって。
森の端まで歩いてリハビリしたり、人族界に行った魔王様のバカンスに呼ばれて手首だけ参加したり。
麗らかな陽光を浴び蕾から花を咲かせる姿(何せ蔓薔薇の女神像だ)に、古城肝試しの白魚の美手首姿(何せソリスト抜擢だ)に、ティティアにホレるゴーレム男が何人か出てきたり。
ティティアがオルクのことを好ましく想っていると知ると、嘆きと失恋酒で二日酔い頭痛ェ!ゴーレムが続出し。
いや、スカルさんならわかるが、オルクはデリカシーないし無理だろうと、その時は自分が!ゴーレムが立ち直り。
でもティティアは元の女神像ゴーレムや村人たちを大切に想ってるから、振り向いてくれないかもしれん…ゴーレムが再び項垂れる。
まー、みんな気長にがんばれ。俺は教育係ポジションで一歩リードしてるし?あれ?してない?
そんなティティアはというと。
「痒い痒い!」
「オルク…そんなに痒いなら、大樹様のベッドに触れるのはやめたら?」
「いや、これが妙にクセになる!」
転げるオルクにクスクス笑いながら、「またシャルに会いたいなー」と呟いてる。
「シャルって誰?」
「私に似た子です」
…どんな美少女?
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フィニッシュ時点は時系列的に隣国古城から魔族一行帰宅後あたり。