2020年12月31日 (木) 14:54
読んでも読まなくても変わらない?話。
場外乱闘4 渡り鳥のヒナ下のあたり。
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森のお散歩からティティアさんの家へ戻り、アストさんは翌日には帰るそうで、その日は夜までべったりくっついてました。
アストさんが、私に。
「…どうしたんですか?」
「今日は一日構う権だった。翁に中断させられた。」
…アストさんが、私に、構う権だったかしら?
スライムソファに抱えて座る美貌が「…心細かっただろう。よく頑張ったな」と頭頂部を顎でくりくりしてきました。
ティティアさんが凄くよく面倒見てくれて、ケロちゃんたちもいるけど、目が覚めたら知らない場所でずっと家族に会えてない状況はやはり不安だったみたい。淋しさを埋めるように、私もぺたっとくっついて甘えさせてもらおう。
「大きくなったな」
「そうですよー?おねーさんワンピースも似合うんですよー?」
フフンと以前より大人っぽいデザインのワンピースにダイアや露草のコサージュ(ベスさんたちからの誕プレ。シノブちゃんが届けてくれた)を着けてくるくる回る私を見て、微笑ましくも、あちこち間違え探しをしている顔のアストさん。
じぃーっと探して、じぃぃ~~っと探して、捻りだした答えは。
「ぬぅ…? ……胸が生えた??」
「生えたいうな!!」
「言葉のセンスが繊細さや情緒に欠けるところはオルクに似なくてよろしい!」「この平原は大革命を起こすからそっとしとけ!」とプリプリ怒ってたら、どこからか「そうだそうだ~」「もっと言っておやりなさい~」「外出と帰宅時間はメモしろ~」と言う声が聴こえました。
「おおおば、おばけ…?」
「わぅ?」
「ふむ。 …種族的には、まぁ、そうだな」
「ひぃぃ!」
いつも通りケロちゃんを抱きしめてやり過ごそうとしたら、ケロちゃんをひょいと掴んで高い位置に持ち上げるアストさん。手を伸ばしても当然届かない。ちくしょう、足長おにいさんめ。
「かえしてーケロちゃんかえしてー」
「ククク… どうした?おねーさん」
「うう~~!ひとりじゃ怖くて眠れないの~!」
そろぉっとケロちゃんを少し下ろして、貰おうとすれば右にさっと避ける。また元の位置に戻して…今度は左へ避ける。また戻して…って、あっちむいてほいか!
わぁわぁやってると「わふぅ~(付き合いきれませんわ~)」と呆れたケロちゃんは、アストさんの手から飛び降り、スライムを連れて部屋を出て行ってしまいました。あああ。
「逃げられた…!」
「逃げられた…!!」
私以上にショックを受けてるアストさん。とりあえずしゃがんで貰ってヨシヨシしてると、漆黒のさらさらで艶やかな髪がとっても綺麗。
出来心でちょっと三つ編み、ちょっとおだんご、ちょっとツインテ…とされるがままのアストさんですが、いくら美魔王様でも似合わないものがあると知りました。こいつはいけない、アテが外れた。
解きながら櫛でブラッシングしてると、花が咲いたようなオーラで気持ちよさそうな恍惚顔。
「気が抜けた魔王様のはずなのに…攻撃力が高いぃ…!」
「ぬぅ?シャル鼻血か?大丈夫か?」
「まだ出てないもん! そういえば、アストさんはどうして魔王様になったんですか?」
「…正確に言えば、嵌められた」
嵌められて魔王業やらされてるのか。
「あれは王城勤務の初日だった…」
そして語られる運命の日―――
◆◇◆
学業を修め、第一希望だった保育の仕事には(実習時点で幼稚舎で全員失神したため)就けなかったが、第二希望の医療の仕事にも(病院に踏み入れたら患者さんが昇天しかけたため)就けず、いっそ自分探しの旅に出ようかと考えていたところ、王城管理職から熱烈な誘いがあって王城勤務職に受験となった。
「誘い文句はなんだったんですか?」
「”ここなら気絶するヤツはいない”だった」
「あー…逃げ出す人はいたんですねー…」
「いたな。受験しただけで、威張るばかりのヤツが去ってほっとしたと感謝された」
「色んな意味で受験生が篩にかけられたー…」
「試験官の選抜試験ではないんだがな」
「試験官も篩にかけられたー…」
試験を突破し、初出勤時、新入職員を対象とした配属前の面談があり、円卓のある重厚な会議室に案内された。
そこで『ここに座って資料に目を通しておくように』と指示があり、大振りの椅子に座り、城内案内から部署・業務内容に人事リスト、避難通路に備品や掃除道具の情報まで、分厚い資料を開く。
上級役人や議員に族長らしき多くの人々が行き交う中、席に就いて読み込むこと十数分、内容は頭に入り、後は実際と擦り合わせくらいか。しかし、まだ会議室は人が入り交じり落ち着かない。
更に待てども待てども待てども…、そんなに慌ただしいようなら後日改めて貰えばと思ったら。
『皆様、よろしいですね?』
『異議なし』
『即座に辞令交付を要望します』
『王城議会は承認します』
『族長連盟も承認します』
『大司法院も承認します』
『はい。それでは新しい魔王様の誕生です。魔王職、よろしくお願いします』
わぁぁ~パチパチ☆
「セバスに辞令交付書をサっと出されて、うっかり受け取ってしまった」
「良すぎる反射神経が弊害をもたらした!」
「まだ青かった。魑魅魍魎が跋扈する中、権謀術数に長けるキツネとタヌキとヤギを掻い潜り、慎重に物事を決めるにはツテも経験も裏技も足りなかった…」
「こんなところで王城ドロドロ事件簿! ……決定打は何だったんですか?」
「私が座っていた椅子が、『魔王の椅子』だった」
『魔王の椅子』は相手を選ぶ。
単に腕力があってもダメ、魔力があってもダメ、知力があってもダメ、財力があってもダメ、外見がよくてもダメ、人気があってもダメ。とにかく選り好みし、選んだ者も途中で気に入らなくなると座らせない。
まず瞬間的に椅子が『タイプじゃない』と放り出す。十分座れても『やっぱり好みじゃない』と放り出す。
粘り強く座ろうとすれば、ありとあらゆる種類の拷問椅子になりビリビリのバチバチのあふんあふんで、最終的には城からも放り出し、出禁になる。
魔王の椅子と魔王城は繋がっており、曲がったヘソが直るまで入城できない。道も空も地下も空間移動でさえ即座に捕まえ、縦回転に横回転もつけて放り出す。
魔王の椅子が何を基準に選んでいるかは不明だが、選ばれた者はそれなりにデキるので誰も文句は言わない。ダメになったら勝手に椅子から放り出されるから。
「まさに面接官の椅子…」
「前魔王が引退してから空位ではあったが、まさか会議室の椅子がそれとは知らず…」
「わぁお… 空位期間は魔王職はどうしてたんですか?」
「セバスや各長が集まって処理してた。 皆、仕事量が減った酒飲みに行こうと騒いでた。酒飲み程度なら待ったをかけれたが、家族サービス時間ができましたねぇ!と言われると何もできなかった…」
「わぁお… それ言ったのセバスさんですよね?」
「そうだ。わかるか?」
「わからいでか」
会議室でワッショイワッショイモードになった各お偉い方は、座ったままの状態で魔王の椅子ごと持ち上げると、まんま神輿を担ぐように城内を廻り、公布し、セレモニー用のテラスから魔王城見学ツアーに来ていた人々に披露し、エントランスから控えの間、謁見の大広間、各コンベンションホール、休憩室、貴賓室、婦人の間、託児所、医療室、道具置き場と訓練場、従業員用食堂と正餐室、庭園、仮眠室…順に職場案内していった。
その際、従事している部署とフロアごと、迎えてくれた各部署長と顔合わせと実現場の擦り合わせも行い、いよいよ最後に『今日からあなたの職場です』と魔王執務室に連れられ、先程座っていた椅子(自立歩行)は、魔王用デスクに納まり―――
『……!』 ←気づいた
就職ガイダンス終了。
「それから毎年、新入職員や中途王城スカウトが来るたびに魔王の椅子を試しているが、現時点で次の候補が来てくれない…」
「…セバスさんは座ってみたんですか?一番可能性がありそうな気がします」
「『私は補佐役の方が性に合います』で『先の短い老体に鞭打って働けと?』で『輝かしい未来ある若者の道を妨げるのは下品な老害がすることです』と断られた。」
「試してもくれない!! でも表立って権威を見せつけるより、影のフィクサーとして手腕を発揮する方が得意って事はわかります…」
「黒幕の椅子も作るべきだ。そうしたら魔王の椅子がハリボテでも許されるかもしれない」
「それはそれで国が揺らぐからやめときましょう」
「むぅ?」
いつになったら魔王職(激務)を退職できるのか。いつかは来るだろう。
明日かもしれないと期待しながら、束の間の休暇を楽しみ味わう。
隣で「業務内容の見直しを提案します」「任せられる仕事は割り振っちゃえ」「福利厚生は大事ですー」と紙にメモするヒトの子。
オルクにバラされてしまったが、保養地が完成したら呼べるだろう。その頃までには定期的に会える時間を作りたい。いっそ居を保養地に移し、王城に通勤すればいいか。
そんなことをつらつらと考えていれば、次第に舟を漕ぎだした愛らしい頭は、おばけ(死霊族)のことをすっかり忘れたようだ。
昔も今も変わらぬ、とろんとした絶対的な信頼と安心感を帯びた瞳に、無表情の男が映る。
「…あいぞーもうずまいてますかぁ?」
「渦巻いてほしいのか?」
「こーきゅーのらんはヤですぅ」
「そうか」
「そーですぅ…」
寝息とともにむにゃむにゃ呟く手は、今日も私を離さない。
◆◇◆
結局その夜は、スライムソファ&ベッドでアストさんにしっかりべったりがっちり抱き着き離れない私が、再び皺作ってもにゃもにゃで寝オチかまし…朝起きたらケロちゃんもスライムたちも普通に周りで寝てました。
そして、寝転びながら美貌も色気オーラも垂れ流しにする魔王様に、眼が潰されそうになり。連日ふにぃ!と羞恥に悶える私を嬉しそうに撫でてました。
「ところで、なんで櫛を持ってソワソワしてるんですか?」
「うむ。昨夜はシャルが私の髪を弄ったからな。今朝は私がシャルの髪を弄らせてもらう」
「……その挑戦、受けて立ちます」
暫くして「グ…ッ!なんという守備力…!」とドリル性・縦ロールを前に苦し気に呻く魔王様と、「おーっほっほっほ!その程度の力量で私(の髪)を倒せるとお思いで?!」と高笑いする令嬢と、寝室で戦う二人に俄かにざわつく魔族たちがいたとか。
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※アストさん、初・髪弄り弄られ弄れませんでした敗北記念
たぶんツインテールまではできた。ストレートはできんかった。
次回更新前に、もう一発更に蛇足入れたい…です…
皆様、お体に気を付けて、寒波に気を付けて、コロナはもっと気を付けてお過ごしください。
良い御歳を。
お読みいただきありがとうございます。
これとこれの続き入れると地の国編めっちゃ長くなりそうな上に、編成が脇道から獣道に突入しそうな予感(ノリ的に)がして、活動報告で投下してました。
全部終わって再編できたら差し込もうかな…
その前に筆が止まってやばめです。どうしましょう。←どうしましょうじゃないw