場外乱闘の更に蛇足 彼が魔王になる前に(色々視点変更)
2021年01月05日 (火) 12:30
2021 今年もよろしくお願いします。
新年一発目から、実はネタが年越しでオチついてなかった件。


読んでも読まなくても変わらない?話。
場外乱闘4 渡り鳥のヒナ下のあたりで、話の筋が繋がってるようで繋がってなくて、微かに繋がってそうな気もしなくもないけれど、場外乱闘の更に蛇足「彼が魔王になった理由」(20201231投下)後の出来事。
この微妙に前後編になれそうでなれなくて、地の国長すぎるし本編入りは諦めましょう!にした。





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「帰っちゃったぁ…」

「わぅ?」

「知ってるー忙しいの知ってるぅー我慢できるぅ~」



 久しぶりに会えた楽しい時間はあっという間に去り、アストさんが帰ってさびしんぼになった私。どうも最近、情緒が落ち着かないお年頃か、心と体のバランスが不安定な状態が続いてます。

 そんな私を慰めようと、ティティアさんとオルク(居残り残業)が昔話をしてくれました。



「昔からアスト様は御強いし器用でしたから、たいていの腕力自慢も魔力自慢もいなしてましたの」

「そうそう。あの人無表情で口下手だからなぁ。昔っからよく誤解されて喧嘩ふっかけられて。

 最初は相手にしてたけど、だんだん数が多くなりすぎて面倒になって、潰すになった。」



 「まー、俺もやったけどな!」とカラカラ笑うオルク。ちょっと待とうか。『いなす』と『潰す』は意味が違う。

 クスクス笑うティティアさんが、「これはアルラウネから聞いた話で、私が直接見た光景ではないですけどね」と断りを入れた上で、話してくれたのは、アストさんの若かりし頃。





 ◆◇◆





 時は今から百年以上前。

 まだアスト様が”魔王”と呼ばれる前。ただのイチ魔族で、最後の学生時代を謳歌されてた頃。

 ただの、とは言いつつも、既にどの分野でも卒なくこなす彼は各方面から引く手数多で将来を嘱望され、一方で以前から興味のあった教育分野への憧れも捨てきれなかった。

 そのため、最終学年の休みを使い、数日間の職業体験(この場合は教育実習?)で、念願の母校学園の幼稚舎に向かわれた。

 ウキウキと期待を胸に、心弾ませながら学園校門前に着き、一歩踏み入れると。



 漏れた威圧で全生徒が倒れ、半数の教員が動けず救急搬送。



「いきなりやらかした!」

「セバスさん曰く『脇が甘い』と。とても楽しみにしてたらしいですが…」

「テンション上げまくり、アドレナリン出まくり、威圧も垂れまくり。」

「遠足前の小学生か!めっちゃわかる!」



 事態を深刻に見た当時の学園長は、これでは授業にならないと、受け入れを取り止め。

 しかし、彼自身が誰かを傷つけるためにやったわけでも、悪気があるわけでもなく、過失というのもおかしい。しかも将来を期待され、今後間接的でも力を発揮してもらうならば、教育現場を見ずに帰すことは機会の損失というもの。さてどうしたものか。



 初等部はどうか。 無理だろう。

 中等部はどうか。 いけるか?いや、繊細な年頃だし、いや、元気な子もいるし…



「…仕事で保育園に視察に行くと怯えられるって…昔から逃げられてたんですね…」

「逃げられるヤツなら見込みがあるぞ!魔王城のスカウトリストに入れてる。」

「スポーツの強化選手じゃないんだからさぁ…」

「だからアスト様に抱っこねだったシャルは、魔族の中では勇者扱いですよ?」

「悪役令嬢(予定)が転職させられた!」



 では、高等部ならどうか。 元気が有り余ってるヤツがいる。ちょうどいい。

 どの魔法分野にも明るく、知力武力もバランスよく秀でている。

 手にしたトロフィーは数え切れず、賞の管理がめんどくさくなって競技会やコンクールをブッチしようとしたら、ライバルと大会運営に連れ戻された。

 では、自分は出ずに代わりに他生徒をとアドバイスしてたら、その年の成績は軒並みトップに躍り出て、責任を取るためコーチや監督が職を失いかけた。



 しかし、若いうちから恵まれすぎた才能は天狗になるのではないか。彼は挫折というものを知って――先程、幼稚舎全滅という涙無くしては語れない悲劇に見舞われ、ウキウキわくわくから奈落の底に落とされ、哀愁も悲壮も漂う背中に何が言えようか。

 幅広く経験し指導ができ、専門学部・大学部・社会へ進む前の学生たちに、良い勉強になるだろう。



 そういう訳で、高等部に『進路に迷う後輩のため、先輩から人生?相談会』へ赴くことになった。

 十分に事前注意、いや、警戒させ、臨時救急施設を準備させたうえで。



「…能力的にVIP扱い妥当なのに、指名手配犯みたいになってなぁい?」

「そういう運命なんだよ。それでも学園の半分は機能停止した。」

「防災訓練か!」

「後日、避難誘導の手引きが改訂された。罹災した当人らの言葉は重かった。」

「めげない挫けない諦めない!」



 そんな経緯で高等部へ実習時に在籍していたのがあの二人。



「もう学園内で大騒ぎでさ。尖がってた俺とケンタローが、どんな面か拝んでやろうぜ!って行ったんだ」



 当時、吸血鬼のオルクとケンタウロスのケンタローは、破天荒な意味で同学年のライバルで、屈指の悪ガキだった。それでもなぜか成績はそこそこで落第も留年も補習すらなかったのだから、学園七不思議にカウントされていた。

 元気も魔力も行動力もテンションも並外れていた二人は、理性や自制心が足りなかった。

 椅子にじっと座ってノートをとることは下手だが、逆立ちで走りながら三角関数や重心値を算出することは上手だった。謎が深まる。



 さて、やっぱり学園のあちらこちらで倒れてる魔族たちの中、やっぱり校門で落ち込むアスト様目掛けて、いきなり『ティーッス』と飛び蹴りで挨拶しようとしたそうな。

 勢いよく頭上から飛び込んでくるヤンチャ坊主二人をぼんやりと眺めるアスト様は。



「あの人、なんにも動かねえの。」

「動かない?」

「そう。無表情のまま微動だにしない。で、くっと僅かに顎引いたと思ったら、俺たちは陥没した地面とキ・ス・してましたって話」

「確かにいなして潰してる!」



 校門前に大きな穴を掘ってしまったどうしようと考えつつ、まぁ後で埋めて均せばいいかに至ったアスト様は、何かに気付くと、徐に陥没した穴から二人の頭を鷲掴みにして持ち上げ一言。



『朝の挨拶は”おはよう”だ』



 そして、僅かに口元を緩ませた――― かな?





 ◆◇◆





「アストさんが精一杯の笑顔!後輩から迎え入れられて嬉しかったんですね!」

「そこかよ!」

「ティティアさんも挨拶のキスハグしてくれますけど…初対面でそれ求めたんですか?」

「キス違うし!挨拶違うし! …まぁ、それからケンタローが懐いて、俺もあの人に追いつきたくて、城仕え目指したってかんじ。」

「ケンタローさんはとっても元気で慕う子が多くて…芋づる式に配下と部下と手下が増えて、今は王城直営の巨大牧場で現場監督されてますよ。」

「シャルもそのうち会うことになるかもな」



 ティティアさんが「会わせていいものかしら…」と悩まし気ですが、アストさんに怯まず真っすぐやってくる人たちがいることに、心がほこっと温まります。

 ちなみに、城仕えを目指すにあたり、オルクとケンタローはおばかを卒業した?らしいです。

 やっぱり椅子に座ってノートをとるのは下手。ならばと、疑似キャラにして名前や性質や化学反応式を暗記したそうな。そんなばかな。



「…記述式作文、苦手だったでしょ」

「よくわかったな!」

「わからいでか」



 結局、全体を通して、青少年の心に影を落としかねないトラウマ事件になりそうで、教育現場で実習できなかったアストさんは、遠くから、ほんとに遠くから見学だけさせてもらって、その時点では教育の道を諦めざるを得なかったそうです。



「威圧コントロールが完璧になったら、リベンジするかもしれませんよ?」

「あの無表情に幼稚舎のガキが”てんてー”って駆け寄る姿が想像できねー」

「そんなことないもん…表情筋もちゃんと解せばきっと…たぶん…希望?」

「だろ?」

「こら、オルク」

「だってあの人、強ぇーもん!たまんねぇよ!最高かよ!」



 想像の中のアストさんは、ちびっこに遠巻きにされて、ちょっと唇噛んで尖がらせて、拗ねながら大人しくしてる気がします。

 しかし、ティティアさんに叱られて、でも上気した顔でキシシと自慢気で愉し気なオルクを見て、アストさんに憧れて追いかけて来る人たちがいることが、なんとも嬉しい。



「ふっふっふ…無敵ライバルのカリスマ性にも弱点があったわ!」

「わふ?」

「お子様達に大人気の悪役令嬢を見て、吠え面かますがよろし!」

『ぷる?』

「おーっほっほっほ!」





 そう遠くない未来。

 遠くから悔し気に唇噛んで尖らせて拗ねる魔王様と、地に伏し息絶え絶えにギブアップする悪役令嬢と、エネルギー怪獣(おこさま)たちと耐久鬼ごっこを華麗にこなすケロちゃんとスライムたちがいたり。




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高おに色おに氷おに手繋ぎおに三色おに影ふみかくれんぼ〇時間戦
ケロちゃんスライム組勝因 子供向きサイズと持久力と人海戦術
シャルさん敗因 体力が三分で尽きた
アストさん敗因 鬼役と言われてなまはげスタイル
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