メモ(小話)
2021年11月21日 (日) 00:40
アケミ

アケミという人が誰なのか、私は知らない。
毎日通う中学校の、同じ教室にいるバスケ部の女の子たちがこぞって「アケミ」の話をする。バスケ部の女の子たちと仲の良い女の子も「アケミ」の名前を出す。
けれど学校の中には「アケミ」の名前を持つ人はいない。
男女どちらにも。
生徒教師どちらにも。
苗字名前どちらにも。
「アケミ」なんて人はどこにもいない。
もしかすると学校の外の――例えば塾にいる人の名前か、と思いもしたけれど、話している内容からして確かにこの中学校にいる人のようだ。
どうやらバスケ部にいる人らしい。
どうやらバスケ部の女の子たちから人気のある人らしい。
誰だろう。
誰だろう。
「アケミ」って一体誰なんだろう。
背筋を這う冷たくざわついた感触。
本当に存在している人なのだろうか。
そもそも「人」なのだろうか。
親が昔読んでいたという本に載っていた「学校の七不思議」。うちの学校の七不思議の一つに「アケミ」が入るかもしれないと考えると息を呑んで大きな期待をしてしまう。
「アケミ」の正体についてあれこれ一人で考えてしばらく経った頃、ふとした拍子に知ってしまった。


「なあ、なんで顧問のこと「アケミ」って呼んでんの?」
「え? なんか「アケミ」っぽくない? 顔っていうか、雰囲気が」
「は? あー……でも言いたいことはなんとなく分かるかも。アケミって言われたらあの先生が浮かぶし」
「でしょ!」
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