2015年01月20日 (火) 22:55
再び置いておきます。
まだかかりそうな感じです。
剣大会後のB面。
・狼王と国主様
皇国には現在、二人の英雄が居る。
そのどちらもムルクの生まれ。一人はムルク国主、もう一人はアヌート国主だ。
ムルク国主の孫はそんな二人の出会いを静かに見守っていた。
彼にとってムルク国主は実の祖父だし、アヌート国主は先の戦争での戦友だ。どちらもよく知っているだけに、どちらの緊張具合も分かってどうにも可笑しくなる。お前等、歴戦の戦士が揃いも揃って何をやっているんだと言いたい。
そもそもずっとムルク国主に憧れていたギラントオーンは置いておいても、いい年した祖父が何を動揺しているのかと孫は思った。いつも怖い顔で威厳のある姿が台無しだ。こんな祖父の姿なんて微塵も見たくなかった。
つっこみたいのを我慢してしばらく見ていると、二人は話もそこそこに別れていった。お互い最後まで挙動不審だった。
「……何やってるんですか。ギオはもう行きましたよ」
別れても挙動不審な自らの祖父に、我慢しきれずにつっこみを入れる。
「いや、だって噂のギラントオーンじゃろう。
単騎で帝国兵を平らげたとか、ムルク熊も親子で逃げるとか。
わしの若い頃でも敵わんわ」
どこか憧れるような目でアヌート国主を見る祖父に、孫は頭を抱えた。
「あの時の俺の報告を聞いていなかったんですか?
それは夜陰に乗じて兵を射殺していったのと、ムルク熊を誘導して帝国兵に突撃させただけです。
変な噂を鵜呑みにしないで下さい。
だいたい、じいさまも単騎突撃で頭割られながら大将首上げたりと無茶やっているじゃないですか。
ご隠居方に会うたびにじいさまのようになるなと言われるんですよ」
「あの料理は美味そうじゃのう……」
ムルク国主は孫からの耳の痛い一言に、聞こえなかったふりをする。
大人げない祖父の姿に孫は深く溜息を吐いた。ちらりと視線を動かした先では、アヌート国主が婚約者に叱られている姿が見える。何か失礼な事でもしたのだろうか。戦友は鈍いからさもありなんと納得していると、隣でムルク国主がぼそりと呟いた。
「……どれくらい強いのかのう。手合わせしてくれんじゃろうか」
何を言っているんだこの老人は。
負けてうっかり死なれても困るし、勝って調子に乗られてももっと困る。
「やめて下さいよ!」
孫は思いっきり叫んだ。その後で、じゃあお前が代わりにやってこいと言われてもっともっと困る事になった。