2011年12月13日 (火) 20:42
これでこの話は終わりです。
「ええ…。もう過去の人よ。」
なんとも言えない表情で響子が答えます。
「それはよろしゅうございました。ところでお嬢さま、お嬢さまにお逢いになっていただきたい方がいらっしゃるのですがお通ししてもよろしいですか?」
ホッとした表情で山口が尋ねます。
「え、ええ…。それは構わないけれど。」
怪訝そうに響子が答えます。
「どうぞ、入ってきなさい。」
山口が声をかけると誰かが入ってきました。
入って来たのは何と別れた彼でした。
「失礼しま…。おい、なんでこんなところに…!」
彼は元請会社の社長秘書に呼ばれたはずなのに、別れた彼女が突然現れて動揺してしまいました。
「コホン…。ちょっと、失礼だぞ。こちらは我社の社長の姪にあたられる方だそ。」
山口が苦々しい表情で言います。
「し、失礼致しました。社長の姪御さんでしたか…!」
彼はすっかり変わってしまったようで響子は哀しくなりました。
「あの、山口さん。これはいったい…?」
響子は戸惑いを隠し切れずに怪訝そうに尋ねます。
「お話しになりたいことがおありかと存じまして、お連れ致しました。佐藤課長、元彼女とはいえ、お嬢さまは元請会社の社長の姪御さんだ。弁えて話しをしなさい。」
「はっ…。恐れ入ります。」
「あの、雅いえ、佐藤さんにここで逢うとは思わなかったわ…。」
響子は少し動揺しながら話しかけます。
「俺も驚いた。まさか社長の姪御さんが響子いや響子さんだったなんて…。何で言わなかったんだ?」
「コホン…。弁えるように申したでしょう。お嬢さまは社長に関係なくご自身を見て欲しかったのですよ。」
山口がさりげなく口を添えます。
「あ、そう、なんだな…。」
彼はすっかり肩を落としてしまいました。
「佐藤さん、私は…。」
「悪かった…。出世したかったんだ。同期の中で役がついてないのが俺だけだったから…。」
彼はすっかり後悔したようにつぶやきます。
響子は哀れむように、
「もう気にしてないから。私には叔父がいい縁談を用意してくれるし…。」
「そうだよな。本当に申し訳なかった。」
彼はそう言って頭を下げました。
「もう行って…。今度は笑って話しましょう。」
響子は無理に笑って言います。
彼が出て行った後、山口が響子に、
「お嬢さま、次は素敵なお方を見つけて下さい。」
「余計なお世話よ!」
響子は山口を睨みつけました。