2019年06月19日 (水) 12:00
周くんと真昼さんの小話。
流行ってたから流れにのった。
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「たぴおかちゃれんじ……?」
きょとん、と不思議そうに首を傾げた真昼に、周は言わない方がよかったな、と後悔して口を結んだ。
帰りがけ、タピオカドリンクの移動販売車を見かけた周が「流行ってるらしいな」と軽い冗談のように言ったのだが、真昼は知らなかったらしい。理解していなさそうなあどけなさの強い表情を見せている。
ただ、周の反応を呆れたものだと思ったらしく、微妙に慌てていた。
「あの、た、タピオカ自体は知っています。キャッサバでんぷんから作ったものですよね。女子高生がよく飲んでる」
「……真昼は飲まないの?」
「お恥ずかしながら……」
「そりゃ珍しいな。千歳と飲んでないのか?」
「千歳さんは『私タピオカよりクレープがいい』って……」
「ああ……」
あの腹ぺこ女子高生なら確かにそう言いかねない。あと、二人がよく利用するであろう駅にあるクレープ屋が非常に美味しいのも原因だろう。
「ですから、その、不勉強で申し訳ないのですが、タピオカチャレンジなるものを知らなくて……聞いた限りだとタピオカドリンクを飲む際に特定の条件を満たさなければならないといったものになりそうですが……」
「ああうんそんな感じなんだけど……まあ真昼は気にしなくていい」
頭の回転が早いのはよい事であるのだが、流石にチャレンジさせる訳にはいかないだろう。
失敗したら真昼が困るし、成功したら周が目のやり場に困る。
周の見立てでは十中八九成功するのだが、流石にチャレンジさせるのも悪い。
「え、そこまで言われると気になるのですが」
「気にするな」
「む。……それはそれとして、女子高生がこぞってタピオカドリンクを飲んでいるのが気になるので、ちょっと買ってきます」
「お、おう」
好奇心が擽られたのか、周に一言かけてから購入待ちの女子高生の列に並んでいく真昼。
少し時間がかかりそうなのでスマホを眺めて待つようだ。
周はそんな真昼を眺めながら列がはけるのを待っていたら、五分程度で真昼が帰って来た。
手にはミルクティーとおぼしきドリンクに黒の粒が入ったもの。見た目からタピオカって分かりやすいな、と少し感心してしまった。
「お待たせしてすみません」
「いやいいよ」
「タピオカ初めてです。あと、タピオカチャレンジって胸にドリンクの容器乗せて飲めるかってものだったんですね」
「ぶっ」
「検索って便利ですね、大体答えてくれるので」
賢く要領のいい真昼は文明の利器をさっさと頼ったらしい。普段なら機転が利いていいのと思うところだが、今回ばかりは恨めしかった。
「チャレンジした方がいいですか?」
「い、いやその」
「周くん、さっきからちらちら見てますし」
「それはごめん。いやその……き、気になりはするけど、大体成功しそうだし……」
流石に凝視は出来ないが、周は真昼とよくくっつくので、胸のサイズはなんとなく把握している。
具体的なカップ数は流石に分からないが、平均よりは大きいしものを載せる余裕はありそうなので、タピオカチャレンジも無難にこなしそうなのだ。
実際に成功させているところを見るのは、とても居たたまれなくなるので、出来ればやめてほしい。
それと同時にやっぱり見たいという欲求も男なのであるから困ったものである。
「別に周くんがしろというならしますけど」
「……あー、その」
「男性が女性の胸部を気にするのは仕方のない事だと思っています」
「そこに理解を示されると複雑なんだが……」
「興味ない方が怖くないですか」
「それもそうだけどな」
性欲がない男子高校生が存在すると考えたら微妙に怖い。周は単純に真昼が困るので表に出さないだけで、人並みにある。
「……見たいです?」
「……見たいです」
人並みにあるが故に、誘惑に負けた。
真昼としてはタピオカチャレンジを周が話題に出したからするべきなのかと聞いてきたのだろうが、周としては周のためにしてくれるという事に何とも言えないもどかしさとむず痒さを感じてしまう。
周が望めば大抵の事はしてくれそうで怖い真昼は「それなら」と買ったタピオカドリンクを胸の上に置こうとする。
そこで、周は一度真昼の手首を掴んだ。
「真昼さん、その、ここでされると万が一失敗した時服がぬれて大変になるので家でしてくれませんか」
「それもそうですね」
納得したらしく頷いた真昼にほっとしつつ、周囲でちらちらとこちらを窺っていた男性諸君に視線を向ければ勢いよく視線を逸らされた。
(油断も隙もない)
恐らくスタイルのよい美少女が最近有名なタピオカチャレンジをしそうな雰囲気を感じ取って眺めていたのであろうが、他人に見せるのはよくない。
自分の彼女が他人の妄想に使われるのは、面白くない。
ただ不機嫌なのを表に出す訳にもいかず、表情はいつも通りのまま真昼の頭を撫でておく。
ふんわりと緩んだ笑顔が周囲をざわつかせたので微妙に後悔したが、その笑顔が自分に向けられているのは分かっているので静かに微笑んでおいた。
「ふと思ったのですけど、胸の上に載せられるか否かを確かめるだけだったら、水の方が安全ですよね」
「まあそれもそうだな」
撫でられる事が当たり前になってしまった真昼が、はにかみを見せたあと手で包んでいるタピオカドリンクを眺める。
タピオカチャレンジとは言うが、要はドリンクを載せるほどの質量があるか否かという話なので、チャレンジする時はタピオカでなくてもよいだろう。むしろこぼした時の事を考えれば中身は水の方がいい。
合理的な判断だな、と少し感心した周を、真昼はじっと見上げる。
「ですので、美味しいうちに飲んでもいいですか?」
どうやら、タピオカチャレンジとは別にタピオカに興味があったらしい。ただ、理由もなく買うのが恥ずかしかったのかもしれない。
微妙に期待したような眼差しを向けてくる真昼に可愛いなあとほっこりしつつ「真昼が買ったものだからいいと思うぞ」と返して、もう一度頭を撫でた。
自分の語彙力のなさに嘆きそうです。