2018年08月29日 (水) 09:04
息抜きの筈だったんだけどなぁ。
なんだか楽しくなってきました。
しかたないね。
たのしいもんね。
◇ ◇
「急げよー、勇者が攻め込んでくるまでに完成させるんだぞー」
「わかっとります-」
秘書は今、とある現場にやってきていた。
その現場では各現場のリーダーが檄を飛ばしつつ作業員達が忙しそうに働いている。
「おお、アストロス様、視察ですか?」
その元に、アストロスの姿を姿を見かけた現場責任者がやってきた。
「ええ。魔王様の指示で現在の状況を確認しに来ました」
「あー、申し訳ない。見ての通り遅れております」
「そのようですね。やはりこの暑さで?」
「ええ、今年の夏は特に暑かったですからな。作業員の疲労が知らず知らずに溜まっておりますわ」
今年の夏は暑かった。
各所を四十度を超える猛暑が襲った。
如何に魔族と言えど、暑さに強い者ばかりでは無い。
「そうですね。今回は魔王様の復活の季節が例年とずれましたからね」
「言い訳にしかならんのはわかっとります。何とか後一月以内には終わらせます。なに、皆、特別休暇も頂きましたし士気は上がっております」
余りの暑さに体調を崩すものが多いと魔王様の耳にも入り、ならばと酷暑が続く間、特別休暇が実施された。
作業の遅れはそれも要因である為、当然納期も一ヶ月伸ばされた。
それでもまだ工期に若干の遅れがみられた事から、正確な状況を掴むようアストロスが派遣されたのだ。
「お願いします。ですがくれぐれも作業員の方々の体調を確認しながら進めてください。これで倒れる者が居てはそもそもこの魔王城を作る意味が薄れますので。ある程度なら四天王を始めとした戦闘部隊の方々が決戦の時期を引き延ばしてくれましょう」
「わかっとります。魔王様のお心に負担はかけませんよ。四天王の方々にもよろしくお伝えください」
「わかりました。よろしくお願いします」
魔王城。
この城は魔王と勇者が戦いを繰り広げる舞台である。
当初、勇者との戦いは宮中で行われることも多かったが、攻め込んできた勇者に戦いに関係の無い職員が傷付けられる事も多く、それに心を痛めた魔王が戦闘部隊だけで勇者を迎え撃つべく公共事業も兼ねた専用の勇者決戦舞台"魔王城"を計画したのが事の始まり。
今では魔王と勇者が戦った舞台として、公営テーマパークのアトラクションとして再利用もされている。
前々回に海の側に作られた魔王城はシーパークとして特に人気が高い。
その為、興行施設と化した魔王城を次の勇者との戦いに使い回すわけにもいかず、魔王復活のたびに新たに魔王城が建設される。
今回も新アトラクションとして使われる魔王城が急ピッチで建設されていた。
「今回は何というか…… ファンシーですね」
これまでの魔王城は基本威厳にあふれ、見る者に魔王様への畏怖と尊敬を覚えさせるデザインとなっていた。
しかし今回はいつもと違い何と言えば良いのか、これは……
「今回は女性に喜ばれる魔王城がコンセプトになっておりましてな」
「女性に?」
「夜、寝ておりましたら夢に魔王様が現れましての、奥様の意向を充分に取り入れるよう指示されたのですわ。いや、あの時は驚きましたぞ、はっはっはっ」
責任者は笑っていたが、アストロスにとっては笑い事では無い。
夢の中で指示、だと!?
魔王様めっ! 封印中にも指示を出せるんじゃねぇか、ど畜生!!
あの状態は、報告を受けられるだけかと思っていた。
今の魔王国は、特に魔王様がいないからと言って運営が回らないことは無い。
封印期間の方が遥かに長いのだ。
当然、その期間を運営する仕組みは既に整っている。
だからといって魔王様の承認が全く必要無いというわけでもない。
国の運営に関わる事柄には魔王様の承認が必要なものもある。
例えば法律の制定などがそれだ。
国全体に関わることであれば、そこに魔王様の意向を無視するわけにはいかないのだ。
そうなれば最悪、二百年の時を待つことになる。
今回に至っては三百年だ。
封印中にも指示が出せるなら待つ必要も無かったでは無いか!
回数はこなせないのかもしれないが、重要案件だけでも通せるならそれは全然違ってくる。
「なるほど…… それは知りませんでした」
その時のアストロスの怪しい笑みの意味を責任者が理解することは無く、話は和やかに進んでいく。
「魔王様に、今回の城のことは奥様には気取られぬようにと念を押されましたのでな。当時、まだ少女だった奥様にそれと気付かれぬようお好きな城のデザインなど聞き出すのに苦心しましたわ」
ああ、なるほど。
それで合点がいった。
子供っぽいのだ。
この城は正に少女がお伽噺で夢見るそれである。
なるほど奥様の城だ……
アストロスは納得した。
「それも建設が遅れた理由の一つですね?」
「ばれましたか」
「魔王様が妥協してくれなかったのでしょう?」
「そうですな。魔王様が復活されました当初は何度も宮殿に足を運びましたわ」
ああ、そういえば私が魔王様の秘書として正式配属される前に、この人をよく宮殿で見かけた。
それが理由だったのか。
アストロスは軽くため息をつく。
「仕方がありませんね。私からも四天王の方々にいつもより更に一ヶ月は戦闘を引き延ばすようお願いしておきます。私も久々に戦場に出ますか」
「なんと、アストロス殿の勇姿が再び!? ありがとうございます。皆、助かります」
「いえいえ。納期の調整はこちらサイドの仕事ですから」
「では、我々も我々の仕事をきっちりとこなして見せましょう。これは歴史に残る城になるでしょうからな」
「でしょうね」
今度の城は一般開放時には魔王城では無く、奥様の名を冠した方が良いかもしれませんね。
そして、キャッチコピーは”夢溢れるミラクルファンタジー”
うん、そうですね。
これでいきましょう。
アストロスの中では既に新テーマパークの枠組みが組み上がり始めていた。
今回もきっと大人気になるだろう。
少女の夢を残しつつ、私はもう大人なのだから、とちょっとシックな小物で身を固めてみたり。
ですが、白ワンピースに喜んでお弁当を作り、公務に出向く魔王様のお弁当箱を花柄のランチクロスで包んでしまう奥様ですし(´❛ㅂ⁃᷄)
いつだって心の隅に乙女が隠れております(˘ω˘)
>夢の中
そこはほら、夢には誰より詳しい夢魔さまですし、秘書さんは(˘ω˘)