意味のわからない業務
2018年12月29日 (土) 13:32
 挨拶回りを終えた亜細万は、退勤のタイムカードを押す為に職場へと向かっていた。
 師走と言う程に忙しくなる十二月において、渋滞に巻き込まれる事もなく、彼はあっさりと職場へと帰還したそうな。

 しかし、彼の恐怖はここから始まった。
 タイムカードに手をかけた瞬間、小走りで寄ってくる上司(三十台前半独身)が声をかけてきたのだ。

「亜細くん、今日暇?」

 某有名大を卒業し、エリート街道まっしぐらの彼女が頬を上気させ、焦った風に語り掛けてくる。
 ここで亜細万は直感する。

(このパターンは厄介ごとだっ!)

 そして、つい口をついて出てしまう嘘。

「あー、暇ではないですね。退勤したら個人的に回りたい所があるので」

 こう嘯く彼であったが、本業は事務であり、何故か営業部で営業の真似事をやっているに過ぎなかった。
 しかし、事実、彼には行かねばならない場所がある。
 そう、からっぽ島に行かねばならないのだ。あの島には、亜細万のビルドを待つ、家無き島民が首を長くして待っているのだから。

 彼の予定は決まっていた。
 クリスマス特別編の続きを書いたら、お酒を飲みながらドラゴンクエストビルダーズ2をやると言う、退廃的で牧歌的な予定があったのだ。

「あ、そう言うのいいから、営業に任せちゃって」

 しかし、女上司も引かない。
 営業に任せろとはどういう事なのだろうかと、亜細万は酷く抗議したくなった。
 彼の相棒、シドーが消えて、追いかけねばならないのだ。何かあったら、ぶん殴っても止めてやると、固く誓ったのだから、譲る訳にはいかない。

「いえ、営業には任せられない事なので……自分にとっても、大事な事ですから」

 なんだかこう、デカい企業に売り込みにいくみたいな話になっているが、実際の所この男、お酒を飲みながらゲームしたいだけである。
 だが、これ位で退いているようなら、亜細万の上司は務まらない。

「ほんとごめんね。でも、任せられるのはもう、貴方しかいなくってさ」

 ちらりと室内を見渡してみると、成程と納得する。
 年末で明日から休みだと歓喜した職員一同は、いつもの三倍以上のスピードで仕事を終わらせて、帰宅していたのだろう。
 事務室には亜細万と、女上司しか存在しなかった。

「私も○○さんとこの忘年会に出なくちゃいけなくて、だからお願い。そのチャンスは棒に振ってくれない? 私が必ず、違う機会を設けるから」

 取引先の忘年会にお呼ばれしたのなら、向かわない訳にはいかないだろう。
 だが、一つだけ突っ込ませてほしい。
 亜細万が言えた義理ではないが、貴女、事務のボスですよね。なんで営業を差し置いて、そんなおっきな所にお呼ばれしてるんすか、と。

「……」

 そんな言葉を飲み込んだのが、彼女には苦悩と取られたのだろう。

「お願い!」

 と頼み込まれたのが運の尽き。

「……わかりました」

 とだけ、返事をして、軽く業務内容を尋ねてみた所。

「発注先に問題が発生したらしくて、復帰の見込みを連絡してくるそうだから、電話番お願いね」

 と、それだけ言うと、彼女はもう一度お願いねと言いながら、走り去っていった。
 ようするに、いつかかってくるかもわからない電話を、年末の誰もいない職場で待ち続ける仕事って訳だ。

「なんだそれ」

 意味がわからなかった。




 と言う経緯がありまして、クリスマス特別編は伸びる事になりました。
コメント全2件
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亜細万
2019年01月01日 22:08
コメントありがとうございます。

そして、あけましておめでとうございます。
本当に謎の業務でした。
濡烏
2018年12月31日 12:03
今年もお疲れ様でした
意味の分からない仕事過ぎて笑っちゃいました

来年も更新楽しみにしてます