こちらは、「勝手に冬童話大賞2025、結果発表②」です。
未読の方は、「勝手に冬童話大賞2025、結果発表①」から先にご覧ください。
ほのぼのかわいい部門
童話だからほのぼのやハッピーエンドは簡単だなんて思っていませんか。読み手が自然と共感する柔らかさというものは、実際に書いてみるとなかなか難しいものです。
自身が書きたいテーマを意識しすぎてしまうと、途端に物語が説教くさくなったりします。そこを飛び越えて、かつ優しい結末に落ち着く作品。本当にどうやったら、こんな作品が書けるのでしょう。ぜひほっこりしてください。
主人公はなんと穴の空いた靴下くん。今までずっと持ち主に大切にされてきたのに、穴が空いたからいらないなんて納得できません。世界のどこかに自分を求めてくれる誰かがいるはず。そう信じて、家を出るのですが……。作品を読み終わった後は、ぜひそのままインターネットで検索してみてくださいね。可愛らしい写真を見ることができますよ。
甘い物が大好きなカラスのアマカァは、駄菓子屋さんにてたびたびお菓子を失敬しています。そのたびにお店のおじさんに怒られるのが不思議だったアマカァですが、仲間のハカァセに「カラスが光り物を集めるように、人間はお金を集めている」と聞き……。ハトと同じくらい身近なカラス。ご近所のカラスたちもこんなことを考えて、日々暮らしているのかもしれませんね。ちなみに小畠愛子さまの冬童話参加作品は本当にたくさんあり、読み手としてわくわくしてしまいます。この作品以外にも「小さな勇者さま」や「ちっちゃいクモと大きな雲」、「ぼくはカメラマン」など素敵な作品が盛りだくさんですので、ぜひ手に取っていただければ嬉しいです。
ビターエンド部門
ビターエンドは読み手によって、エンディングの感想がわかれる物語を指します。こちらの作品は両手をあげてハッピーエンドだと叫ぶ作品ではありません。けれど読み終わった後の余韻がどれもとても素晴らしいものばかり。
胸に残るほろ苦さは、私たちにある種のノスタルジーを感じさせてくれるのかもしれません。
村を救うために自分の身を捧げることを決意したヤナ。湖に飛び込んだ結果、記憶を失ったヤナはお城の中で不思議な仲間たちに出会います。
美しくも不安定な世界観がとても美しい世界です。楽しいお城の風景とその背後にあるものを考えると、胸がたまらなく苦しくなります。どんなに誰かのことを考えても歪みが起きてしまう竜。そんな中でも常に最善を願う竜の優しさが美しい。そしてこれから先、決して順風満帆の人生を送るとは思えないヤナ。それでも前に進んでいく、生きていくことを選択したヤナのことを応援したくなる物語です。
主人公のミンミは、ふるさとの村を氷漬けにされてしまいました。ミンミは自分を助けてくれた北風と一緒に、時の止まった村と大切な家族を救うために旅に出るのですが……。
六福亭さまは、今年も冬の童話祭期間中にたくさんのお話を投稿していらっしゃいました。「ホシノシホさんの夜の冒険」や「月夜に」、「北溟のトナカイ」や「レモン」、「ろうそくたてと錫のかたまり」や「トロルの灯」や「ユニコーンの通過儀礼」など、好きな作品ばかりでいろいろと悩みましたが、吹き付ける風にあおられ、目と胸が痛くなったこちらの作品を選ばせていただきました。可愛らしいものから、胸がぎゅっと苦しくなるようなものまで、本当にたくさんの作品を堪能させていただいております
家族部門
童話ジャンルということで、今年の冬童話も家族を題材にしたものが多く見られました。兄弟姉妹を想う子の優しさ、子どもを守ろうとする親の強さ。離れてしまったひとへの哀愁。どれもきっと、みなさんにとって身近なお話になるはずです。
すべてを忘れて読書に夢中になった経験をお持ちのかたも多いのではないでしょうか。物語の主人公は、読書が大好きな女の子。今日のお目当ては、「エルマーのぼうけん」です。夢中になって読んでいるうちに、お母さんとの約束もすっかり忘れてしまって……。
女の子の気持ちも、お母さんの気持ちもどちらもよくわかります。懐かしさとともに大人になった自分を実感する物語です。
森のことを教えるのが森に住むレイラのお仕事。だから、「わからない」と答えることはできないとレイラはずっと思っていました。ところがその日レイラのもとを訪れたライムは、「わからなければ一緒に探しに行こう」と誘ってくれて……。
遠回りは決して悪いことではないのです。近道を選ぶばかりでは見えないことがたくさんあります。そして必要には思えない物事の中に、心を豊かにしてくれる様々なものがたくさん隠れているのです。
あやかし・神さま部門
童話、昔話では、あやかしや神さまといった類の存在は、広く認められるもの。ひととは違う、けれど同じように悩み喜び笑う彼らの言葉に、思わずあなたも胸があたたかくなるはずです。
勇者の兄であるリックと聖女の妹であるアリーは、勇者と聖女の影に隠れて、いつも忘れられてばかりいます。仕方のないこととは思いつつ、寂しさは募る一方です。それでもふたりのことを大切にしてくれる少数のひとたちのお陰で、ふたりはなんとか無事に大きくなることができました。
ふたりが出会ってから十年後。いまだ眠り続ける天使を目覚めさせるため、ふたりは冒険の旅に出かけることになり……。
目先の欲望に流されることなく、深い絶望に自棄になることなく、大切なものを見て自ら行動することができたなら、きっと物語も人生もハッピーエンドを迎えることができるのでしょう。
山奥の村に住むミドリは、元気な男の子。ある日ミドリは、山の中で小さな女の子メダマに出会います。ミドリはメダマと仲良くなりますが……。
人間とひとならざるものの感覚の違いにぞくり、どきり。ちょっと不思議で、少し怖くて、でも何度も繰り返し読みたくなる物語です。
図書館に届いたのは、とある新しい絵本。人気作とはいえ、何の変哲もない普通の絵本です。ところがこの絵本は、あっちにふらふら、こっちにふらふら、まるで旅をするようにしょっちゅう思ってもみない場所に行ってしまうのです。
正確にはこちらの作品内には、直接的な神さまもあやかしもできません。ただ日常の中に潜んでいる不思議といいましょうか、きっと何かある、もしくは何かいるんだろうなと思わせられるお話です。こんなちょっとした不思議がある図書館、結構多いのではないでしょうか。
特別部門
ここまで『勝手に冬童話大賞』をご覧いただいた方の中には、「今年、あれが選ばれてないの? どうしたの?」と思われた方もいらっしゃるかと思います。そう、みんな大好き「とりとねこ」のお話ですね。
冬童話大賞では同じ作品のシリーズがずっと受賞し続けるということはあまりありません(同じ作家さんの作品がたびたび選出されることはありますが)しかしこの「とりとねこ」のお話は大好きすぎて、常に可愛い可愛いと言いながらご紹介しているのです。毎年ずっとご紹介していますが、今後も受賞は確実ということで、ここで永世称号をお贈りすることにいたしました。
というわけで、やまだのぼるさまの「とりとねこ」のお話については、「永世かわい位」とさせていただきたく存じます。
マキさんの部屋で暮らしている白いとりと三毛のねこのぬいぐるみ。「とり」と「ねこ」は、毎日ふこふこと暮らしています。今日のとりとねこは、なんとライバルに会いに行くそうです。そのライバルとは果たして……。可愛くて面白いとりとねこのコンビは、今年も元気いっぱいです。
冬童話大賞2025
今回の冬の童話祭は「冒険に出かけよう」というテーマでした。
今いる場所が平和だからこそ刺激を求めて冒険に出る物語もあれば、今が苦しく不安だからこそ心の安寧を求めて冒険に出る物語がありました。冒険に今まさに足を踏み出そうとする物語もあれば、冒険の終わりを噛みしめる物語がありました。
私たちの置かれた場所はひとそれぞれ。どんな人々にも夢があり、また悩みがあります。その重さも色合いも手触りも、日々移ろうことでしょう。それでもよりよい明日を夢見て、私たちは自分のできることをひとつひとつ積み重ねていく。手探りで進んでいく毎日は既に同じものなどひとつとしてない大冒険なのですよね。
どうかこの冬の童話祭の作品が、ひとりでも多くのみなさまの心に届きますように。
というわけで、勝手に冬童話大賞2025の発表です。
粉ひき屋の兄弟の末っ子イヴァンは、父親が死ぬと同時に家を出ることにしました。そんなイヴァンの旅になぜか勝手にくっついてきたのは家で昔から飼っていた猫。猫は猫らしく気ままに過ごしつつ、旅に不慣れなイヴァンに様々なアドバイスをしてくれます。そんなイヴァンと猫は、ある日不思議な少年に出会い……。
猫が激しく猫らしくて、最後までにまにまが止まりません。もちろん物語の結末はハッピーエンド。魔法の袋と鍋もすごいのですが、イヴァンを幸せに導いたのはやっぱり猫なのですよね! 猫が家にいないにもかかわらず、エア猫吸いをしたくなる作品です。猫、もふもふしたい
以上で、全作品の紹介を終わります。
冬童話2025の開催期間は終わりましたが、感想を書くのに期限はありません。もしもこの活動報告内で、皆さんの心に響く作品がひとつでも見つかれば嬉しいです。私もこれからゆっくり各作品にレビューをつけるつもりです。
最後に冬童話に参加した当方の作品の宣伝をさせてください。
本の虫姫と呼ばれたお姫さまは、姉姫さまの代わりに罰を受けることになりました。その上、悪魔の気まぐれにより花嫁に選ばれてしまいます。悲しみに暮れているかと思いきや、お姫さまはいつも通り笑顔で本を読んでおりました。不思議に思った神官さまが疑問をぶつけたところ……。
ハッピーエンドです。
なお、本日の活動報告は、
夕月 悠里さまの
割烹エディターを利用して作成いたしました。
今年も素敵なお話をありがとうございます。
勝手に冬童話大賞、今年は遅くなってしまい例年よりさらにこっそりの開催となっておりました。
プーシーの可愛さにもうメロメロです。
毎年話しているような気がするのですが、碧衣さんの作品をいつか絵本で読みたいのです!
■汐の音さま
お久しぶりです。
こちらこそ活動報告などにコメントも残せずすみません。
汐の音さんらしいファンタジーとメルヘンの世界で紡がれる主人公の成長譚、そして添えられたお嬢さんのイラストがまた本当に素敵な作品でした。大切なひとがいるからこそ、勇気が出せる、前に進む力を発揮できることってありますよね。
「早咲きカカオ」も、とっても甘酸っぱくて胸がきゅんとなるお話でした。青春だなあ。言葉が、そして物語が持つ力って本当にすごいですよね。これからも汐の音さんの作品を楽しみにしています。
■たんばりんさま
こんにちは!
ようこそ、おいでくださいました!
こちらの勝手に冬童話大賞は、2019年からやっている活動です。せっかく全部読んだからやってみようかな〜という気楽な感じで始めたものでして、まさか数年後も続けることになろうとは自分でもびっくりです。毎年50作品ほどに候補作を絞るのですが、その後はどれを受賞作にしようかうんうんうなりつつ選出しております。
たんばりんさまも、素敵な活動をなさっているんですね! 読み仲間ということで、とっても嬉しいです。公式企画の作品紹介をなさっている方もちらほらいらっしゃるのですが、これからさらに増えていくといいですよね。