設定資料 その8
2016年06月03日 (金) 15:16
7.妖魔について

 「妖魔」は、自然界の生物とは異なる進化の過程を辿ったモンスター……と、本編中にはあります。今回はこの妖魔について、もう少し詳しくお話ししていきたいと思います。

 ①妖魔と妖魔界
 一般の生物が暮らす世界を仮に「生物界」とすれば、妖魔は独自の「妖魔界」なる世界で生きています。これらは別次元にあるわけではなく、同じ次元ーー空間に存在しています。生物界には他所多様な生物がおり、互いが食物連鎖など複雑に絡み合って生きているように、妖魔も独自に妖魔界で同じような関係を築いています。つまり、全くの別枠。故に漉士がいくら妖魔を狩ろうと、生物界には何ら影響がないのです。もし生物界で人間が同様のことをすれば、「自然破壊だ!」と大問題になるでしょう。でも妖魔の狩りにはそのような問題が発生しないので、漉士も心おきなく(情け容赦なく)紙漉き出来るのです。
 ただ、妖魔界には生物界の「植物」に該当する生き物がいません。植物は太陽光を浴び、光合成を行ってエネルギーへ変えます。妖魔界にはこのシステムがありません。以前お話ししましたように、妖魔の食料は「妖気」です。妖気は妖魔の身体から吸収するか、他の妖魔が放出したものをもらうーーこの二つの方法以外に得る手段はありません。
 強い妖魔は他の妖魔を襲えばすむ話ですが、弱い妖魔はそうも言っていられません。妖気は光合成のように太陽光から合成できるものではないからです。よって妖魔界の底辺にいる妖魔ーー和州で言えば尾長鼠のような最弱妖魔は、妖気と似たものーー生物の「気」(生命エネルギー)を摂取し、これを体内で妖気に変えます。早い話、この部分は生物界に依存しているのです。見ようによっては彼らが妖魔界の「植物」とも言える存在かも知れません。
 ただこの様な最弱妖魔がほどほどにーー生きるに必要とする程度の気を吸っても、生物は簡単に死んだりしません。さすが何匹も集られたら弱ったり死んだりすることはありますが、普通そうしたことはまず起こらないようです。しかし都市部といった人間が多く住む地域では、時々起こることがあります。自然豊かな地域に比べ、人以外の生き物の数が少ないからでしょう。
 勿論最弱妖魔でも、目の前に他の妖魔の死体があれば、喜んでかぶりつきます。普段は生き物の気以外に食べる物がないので、渋々摂取しているに過ぎません。しかも妖気の方が圧倒的に美味しく、エネルギー効率も良いときています。サラダとステーキ、二つの皿を並べられたらどちらをとるか……そう考えればわかりやすいですね。
 因みに妖魔の死体は生き物の死体のように腐敗はしません。少しずつ崩れて、ゆっくりと妖気を放出しながら消えていきます。そのため住宅地で妖魔が死んでも、人間は全く気付きません。姿も見えず、臭いもしないからです。
 とは言えど通常、そんなのんびり死体は消滅はしません。妖気の気配を嗅ぎつけて、直ぐに他の妖魔が群がってきます。そしてあっという間に牙を突き立てられ、妖気を吸い尽くされて跡形もなく消え失せる……これが死んだ妖魔の運命なのです。

 ②妖魔の繁殖
 妖魔には自然界の生物同様、多様な種が存在します。元々は限られた種しかいなかったはずですが、世代を重ねるうちに様々な姿形に進化したのです。
 では、妖魔はどのように子孫を残すのでしょうか? 意外にも妖魔に雌雄の区別はありません。雄でもあるし、雌でもあるのです。生物界の生き物には雌雄によって異なる姿をしたものも結構いるのですが、当然の事ながらその様な差はありません。本編の第1話に名前だけ出てきた魔鹿は、その名の通り鹿に似た姿をしていますが、全ての個体に角があります(ランクによって角の大小はありますが)。
 具体的な繁殖方法ですが、二体の同種の妖魔が出会った際「こいつと子供を残そう」と互いに感じた時が「繁殖期」。多くの妖魔は特に決まった繁殖期を持っていませんので、年がら年中繁殖が可能です。
 そして妖気を放出しあい、新たな妖魔の身体と命を練り上げていきます。繁殖には多大な妖力を消費するので、一度に一体作るのが限度です。生まれてくる子供は例外なくその種のランク1個体です。でも「親」である二体の妖魔は、子供の誕生を見届けると、振り返ることなくさっさと立ち去ってしまいます。子供を守ることもしなければ、育てることもしません。生みっぱなしなのです。子供はもう自力で生きるしかありません。生まれた直後から厳しい生存競争の真っ直中に放り込まれるのです。
 その様な事情から、弱い妖魔ほど頻繁に繁殖行動を起こします。のんびり子作りをしていたら根絶やしにされ、絶滅してしまいますから。種によっては毎日のように子を造っているものもあります。それとは対照的に強い妖魔はあまり繁殖しません。年に1~2回程度の種もあります。その理由は絶滅の危険が低いから……とこともありますが、逆に数が増えすぎると不都合が生じるからです。己の子供とは言え、成長すればライバルになるのですから。
 妖魔は通常、同種同士でなければ繁殖しませんが、近くに同類がいない場合は例外的に異種同士でも繁殖することがあります。その場合レベルの高い妖魔が低い妖魔に対し、繁殖を持ちかけます。ただし、それもどうしても自分の「血」を残したいという欲求が、食欲を上回った時だけです。逆パターンーーレベルの低い妖魔が高い妖魔に繁殖を持ちかけることはありません。何故なら相手に食べられてしまいますから。
 さて、妖魔の大部分は「生みっぱなし」ですが、例外的に子育てをするものもいます。子育てする妖魔は現在確認されているもので数種。全てその地域を代表するような強力な妖魔で、かつ知能も高い種です。繁殖は短くても数年に一回程度、妖魔の長い一生の中でも数えるほどしか行いません。つまり、この種の妖魔は少ない子供を大切かつ確実に育てる方法をとったのです。
 この確実な方法をとった妖魔の一つが、以前お話しした黒虎です。黒虎は密林の奥深く、洞穴の中でたった一体の子供を親二体がかりで育てます。子育て期間は二年程度、少なくとも子供がランク3(特殊能力の「煙幕」が使える)になるまでは手元に置きます。
 言うまでもなく、子育て中の黒虎は極めて危険です。ただでさえ「密林の邪妖」などと言われて恐れられているのに、もっと厄介な存在になります。うっかり親の居ぬ間に巣穴の洞窟に人が入り込み、家へ戻ったその夜のうちに親の黒虎に襲われて村が全滅……などという惨劇も過去には起きています。たとえ子供が無事でも、親は人間が侵入したことを許しません。また人間が来るかも知れない。そう危機感をもった親は、臭いを辿って村へ辿りつき、住民を皆殺しにしてしまったのです。こんな恐ろしい相手を子供諸共誰が紙漉きしたのかーー興味深いことではありますが。

 ③妖魔信仰について
 紙士が現れる以前、人間は妖魔とお互いの生存をかけて戦ってきました。でも押され気味だった人間は、戦わず上手く妖魔と折り合う道を選ぶこともありました。それが「妖魔信仰」です。
 ぶっちゃけた話、妖魔を神様として祭り上げることで御機嫌をとり、害悪を起こさないでもらおうーーというものです。凶悪な妖魔といえど、神様として崇められると満更でもないようで、人々に恩恵を与える良い神にーー「善神」になる場合もありました。
 しかし、大部分は見返りに生贄などを求める「悪神」でした。生贄と言っても妖魔は人間を食べませんから、ただ面白半分に殺すだけ。更に少しでも機嫌を損なうようなことをすれば荒れ狂い、人々に危害を加えました。信仰するのも命懸けだったのです。
 ただ、妖魔からすれば、信仰されるメリットはありました。人間の畏敬の念は、妖力をアップさせるからです。熱心に信仰されればされるほどーー畏敬の念が強力になればなるほど強い妖力が持てます。故に妖魔はその地域の人々に「もっと俺を崇めろ! もっと信者を増やせ!」などと圧力をかけていました。また、信者のいない妖魔は「俺を崇めれば良いことがあるぜ!」とアピールして神になろうともしました。
 ところが紙士の登場により状況が一変します。妖魔の退治が可能となったからです。途端に人々は掌を返したように妖魔信仰を捨て、漉士に抹殺を依頼するようになりました。それはそうですよね。今まで散々気を使い、怖い思いをしてきたのですから。そんな厄介なもの、いない方が良いに決まっています。
 こうして悪神は次々に駆逐され、妖魔信仰は急速に衰退しました。しかし、一部の信仰は残りました。善神が奉られている地域です。中には現在まで続いているものもあります。
 そして次作の舞台となる(予定の)地・藍滑町も、こうした妖魔信仰が色濃く残る地域なのです。五穀豊穣の神と崇められた妖魔。その地へやってきた鳳凰兄妹は、一体何を見るのでしょうか。
 
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