タイトルメモ『偽譚審問官』
2018年06月27日 (水) 20:25
恋愛譚、青春譚、美譚、英雄譚ーー。

聞けば心が踊り、洗われる。
悲しくもあり、楽しくもある。
言葉というのはそういうものだ。

誰かがその身で感じ、伝えたこと。
そういった言葉が紡がれ、飾られ、纏められ、
一つの話となって広がっていく。

美しく、素晴らしく、格好良くて、憧れる。

一人の言葉が本となり、歌となって万人の知るところになっていく。

音が集まり言葉となって、言葉が重なり意味を成す。
意味を持った言葉は無数に紡がれ話となって、話はやがて『力』を持った。

条理を、ルールを、法則を。

語られていく譚(話)は知らず知らずに世界を変えて、元あるルールを塗りつぶす。

『力』の元が偽りであっても。



『力』はやがて信仰を生んだ。
このお話を信じれば、口に出せば『力』を得られた。

無力な人は信じ崇めた。
導のない、頼るものもない、明日も知れない絶望を抱えたものは『力』に頼るしかなかったからだ。

信じる。崇める。
それで生きていけるのならば安かった。

さぁ、私に力を。
生きるための術を私に。


世界に無数の力が溢れた。
人々は話を語り、力を使う。
条理は曲がり、ルールは歪んだ。

いつしか語られる話に虚構が混じり、真実が混ざらない話も出てきた。
嘘、偽りで塗り固められたお話ーー、偽譚が姿を現した。

あたかも自分が体験したかのように、人々は口から偽譚が語られ、話に力が備わった。
偽りであっても力が備わることを知った人はどんどん偽譚を作り出し、無数の力を身につけた。

その力を持って人は他の人を支配する。

力あるものに、私に、従え。


力が人を支配する。
音は、言葉は、話は、ただの人の道具に変えられた。
本来の意味が塗りつぶされ、新しいルールに変えられた。
新しいルールが当たり前のことになった時、ある集団が現れた。


『偽譚審問官』


正しき言葉に祝福を。
偽りの話に鉄槌を。

彼らは紡がれる思いを調べつくす。

偽りを暴き、元の世界に戻すため。
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