ある昼下がり、一人の公爵令嬢は久方ぶりに婚約者と昼食を一緒することになった。
待ち合わせの場所に指定された席に座っていると突然、複数人の貴族の子息と一人の令嬢に声をかけられる。なにかと問えうと余りにも突拍子のない事を言われ、瞬時に理解した。
(あらあら、また、かしら?)
人前では初めてだが、こう言った勘違いをした女性は初めてではない。
なにせ公爵令嬢が他の令嬢に突っかかられることは珍しくなく、その原因は全て自分の婚約者、となれば当然、対応するのは公爵令嬢となる。
上手く処理で来た場合は良いが、今回は何せ人目がある食堂だ。
(今回はどうしましょう?)
正直お腹が空いている公爵令嬢は長引きそうな案件にげんなりとし、食堂の入り口から現れた婚約者を目にした途端、あらあらと内心驚いた。
温厚で通っている彼が一目見ただけでわかる程に機嫌が悪そうだ。
真っ直ぐに注がれる視線は公爵令嬢しか映しておらず一直線にこちらへやって来る。
(ああ、もうっ。面倒事はごめんでしてよ)
気持ちを切り替え愛しい婚約者と対峙する公爵令嬢は視線を逸らすことなく見つめ返した。