右肩の故障で失った野球人生は、昭和の夕焼けの中で静かに再び始まる。
白球に青春を懸けた男たちの時代。グラウンドには汗が飛び、怒号が飛び、靴底が砕けるまで走り込む少年たちの姿があった。
水を飲むな、根性で耐えろ。
怪我をしても走れ、気持ちで抑えろ。
チームプレーは背中で学べ。
昭和という名の熱風が、野球を、少年たちを鍛えていた。
その中に、ノートを持つ少年がひとり。
誰よりも小さく、静かにプレーを見つめるその目は、未来を知っていた。
打球の軌道、投手の癖、守備の穴――
誰もが気合で野球をしていた時代に、ひとりだけ「勝ち方」を知っていた。
昭和を否定しない。
だが、すべてを鵜呑みにするつもりもない。
汗と泥の中に、“考える野球”が芽を出す。
灼熱の昭和に――
その知性は、炎の中にあった。
*同タイトルでカクヨムに先行投稿しています。