────世界は一変した。
人類は、生存圏の三割を、失った。
街は燃え、空が穢れ、海は犯され。
人は、塵のように、踏み殺された。
奪われたものは、余りに多く。
取り返したものは、殆どない。
始まりは北海道。
異形(いぎょう)と呼ばれる、その化け物は、馬鹿馬鹿しいほど唐突に現れ、当然の様に街を破壊し人を殺して回った。
時を待たずしてロンドン、ハワイを中心に、世界中で同種と思しき化物共が、我が物顔で街と人とを蹂躙した。
人類は抵抗しなかったのか。
否。
抵抗した。
但し無意味だった。
人類が人類の歴史の中で人類を殺すために作った現代兵器は、そのことごとくが効果を発揮しなかった。
何万人も。
何十万人も。
何百万人も。
人が死んだ。
やがて、異形共の発生源が、いずれも様々な形状の地下構造物であると判明。「ダンジョン」と呼称され認知された頃から、人類の反逆が始まる。
巣穴を壊せば。
ダンジョンを踏破したならば。
この悲劇は終わらせることが出来るのやも知れない。
根拠の薄い、願いにも似た僅かな光に、世界中が飛びついた。
未曾有の危機を前に世界は開闢以来初めて団結し、ダンジョン攻略に当たった。
兵士が何万人死んでも。
世界は。或いは挑む兵士達自身も。決して諦めなかった。
他に光など、なかったから。
奇しくも、世界で初めて異形が現れた、日本のダンジョンが踏破された。
死闘の跡生々しく、血と臓物に混じった床に、青白い光があった。
それは、一枚の「カード」だった────
北海道を。故郷を。家族を。友人を。
その全てを失った少年、月見里紫苑(やまなししおん)。
単なるカードゲーム好きな少年だった彼の運命は、「異形」によって捻じ曲げられた。
彼の目的はただ一つ。
喪われた故郷を、人類の手に取り戻すこと。
人類に与えられた冗談の様な「兵器」
カードを手に、彼もまた反逆する。
世界を襲った「理不尽」と
自分から奪った「異形共」への
──これは、反逆だ────