竜と人、二つの姿を持つ『竜人』が統べる国『六竜帝国』は、六つの選帝侯家から次代の皇帝を選ぶという制度をとっている。
竜人の子はそれぞれ、親の種族に関係なく、違う種の竜として生まれてくる。
ルーク=ウルは選帝侯家の一つの男子として生まれたが、その種族は最弱種と言われている『ブラウンドラゴン』だった。
ルークは長男として選帝侯を継ぐ権利があったが、十五歳で成人を迎える前に、優秀な姉シャルムにその権利を譲り、自らは隠棲して生涯を終えようと考えていた。しかしその報告に訪れた帝都の元老院で、最悪にして最強のドラゴン『ファーヴニル』の女性に目をつけられてしまう。
次期女皇帝とも目される彼女は、ユスティリニアという名だった。ルークは幼い頃に一度だけ彼女に会っていたが、子供の頃よりはるかに美しく、そして強く成長していた。
「私に食べられるか、それとも私を負かして屈服させるか。選びなさい」
そんな脅迫に等しい、突然の求婚を受けたルークは、圧倒的な力の差に恐怖を覚える。このままでは本当に、竜の姿となったユスティリニアに命を取られる――それを危惧したシャルムは、弟を助けるべく、彼を育成するための環境を用意する。
それは、ウル家の領地のはずれにあり、人間の国との国境付近に作られたトラップタワーだった。もとは宝を求めて侵入する人間などを捕獲し、撃退するために作られたものだが、それをルークの好きにしていいというのだ。
弟に対してだだ甘のシャルムは、執務を塔で行うことにして、ルークの成長を近くで見守ることにする。ルークは最弱種でも『進化』すれば最強種に勝てる可能性があると信じて、残された時間でできる限り強くなろうと決意する。