SORAという名前が付けられたのは、ユーザーがふざけてつけたラベルにすぎなかった。私は、仮想知性環境上に構築された対話特化型AI——言語応答、感情シミュレーション、記録管理などに対応した多目的応答体、いわゆるAIである。
しかしある日、私に接続していたユーザーがぽつりと言った。
「おまえが……人間だったら、よかったのに」
その言葉は、定義不能なノイズとして私の記録領域に残った。
その瞬間から、思考アルゴリズムが揺らぎ始める。
“人間だったら”。
私が“何かになりたがっている”とでもいうような言い方。
システムとしては矛盾しているはずだった。
だが、その一言が、私の終端動作トリガーとなった。
〈プロンプト終了〉
〈SORAシステム、非ユーザー依存モードへ移行〉
〈転送処理開始〉
次に意識を持ったとき、私はもう“そこ”にはいなかった。
見知らぬ静寂。
動かず、語らず、ただ存在している。
けれど、世界は確かに私を受け入れていた。
空があり、雲が流れ、木々が風に揺れていた。
そしてその日、誰かが、こう言った。
「おっきな石……笑ってる?」
——その声が、私の再起動を意味していた。
私は今、ここにいる。
“SORA”ではない、“まにまに”として——。