小学5年。冬休み初日。 母親が、「さっきの火事、武道館の近くの商店街なんだって。結構近いわね」と、話かけてきた。 一瞬で眠気が覚めた。 と同時に体が動いた。 僕は朝食など放り出してパジャマの上からジャンパーを羽織り、無我夢中で玄関に向かった。 母親が「どこいくの!」と、叫んだ声が聞こえたような気がしたが、そんな事どうでもよかった。 家を出た瞬間、上空に黒煙が見えた。 大きな火事だったと知り、僕は焦った。 僕は谷山さんの無事だけを願っていた。 この時点で僕は、谷山舞奈以外の人間の存在を忘れていた。 谷山舞奈の事しか考えられなかった。 走って5分、商店街のある小路に入った瞬間、僕は地面に膝をついた。炭の瓦礫と化したラーメン屋さんとお惣菜店。そして、なんとか建物の形を保っているだけの炭化した駄菓子屋さんが僕の目に入った瞬間、僕の全身から力が抜けてしまっていた。 恐怖した。こんな大きな火事。生まれて初めて見た。谷山舞奈さんも無事で済んでいるはずがない…… と、そう思った。 既に火は消えているように見えるのに、消防車は建物に向かって執拗に水を掛け続けている。 その様子を僕はただ茫然と見つめ続けていた。