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短編
「ふん……陰気だな。まだ自分は偽者ではないと言いたいのか」  それはもうこれまで、何度も主張してきた事だ。何を言っても誰も話を聞かず、既に処刑執行が決まったという状況で、今更何を言えと。 「今度はだんまりか……相変わらず我々をイライラさせるのが上手いことだ」 「では、一日でも早く処刑なさることですね」 「言われずともするさ、予定通りにな。また会おう、死刑囚アネモネ」  そう吐き捨てた殿下は、来た時と同じく整然とした歩調で、地下牢から去っていった。 「…………疲れた」  砕かれ、曲げられてまともに動かせなくなった手足。足りない食事。そして両親と妹、婚約者だった殿下から浴びせられる罵詈雑言と、有象無象から浴びせられる絶えない嘲笑。  もう、疲れた。何もかもどうでもいい。 「来世では、もっと平凡で、温かな人生を送りたいな……贅沢は、言わない、から……」  最後の祈りは、自分の為だけに捧げると、心に誓っていた。
作品情報
ヒューマンドラマ[文芸] R15残酷な描写あり
最終更新日:2025年04月28日