「我々ポーンドット家はまさしくチェスのポーンのように力が無いから一つ一つ懸命に前に進んでいくしかないんだ。だが、よく考えてごらん? キングもクイーンも全てはひとつの駒にすぎない。ポーンだって立派な駒のひとつなんだ。みんな同じで、みんな一緒なんだ。だから決して貴族たる誇りを忘れてはいけないよ? そうすればきっと幸せになれるから。分かったね? ローレライ?」
幼い頃から何度もそう言い聞かされていたポーンドット男爵令嬢ローレライ・ポーンドット。
決して高位とは言えない身分の中、父の言いつけを守り貴族たる誇りを持って真っ直ぐに育った彼女は近々、サーキスタ子爵令息のアシュトレイ・サーキスタ卿と結婚する予定だった。
だが、とある公爵家にて行われた盛大な茶会の会場で彼女は突然、婚約破棄を突きつけられてしまう。
突然の出来事に理解が出来ず慌てるローレライだったが、更なる困難が彼女を苦しめていく。
貴族たる誇りを持って生きるとは何なのか。
人間らしく生きるとは何なのか。
今、壮絶な悪意が彼女に牙を剥く。