少年が目を覚ました。
|黄蘗《きはだ》色の短髪に灰色の瞳をした|痩《や》せ気味の少年である。
寝台から降りて日除け窓を開けるとささくれだった床板に|仄《ほの》かな灯りが差し込む。
朝だというのに輝かしくないのは、空が百年以上も昔から玉虫色に鈍く光る|靄《もや》で覆われているからだ。
超大国ロデスティニア。
蒸気機関と煉瓦造りの古い町並みが歴史の調和を生み出す首都の上空にはもう一つの国がある。
その空の謎を解き明かす。
それが少年シェザード・トレヴァンスの夢だった。
繋世歴662年、夏。
少年はリオンと名乗る少女と出会い、追われる身となった。
これは虚ろなる山にて十一の鐘を数え、時の眠りし様を見守る時の賢者が冒険家ニールに語る、追憶の物語である。