――その昔、巫女に恋した鬼がいた。鬼に恋した巫女がいた。
村の神泉を守るカンナギ一族の娘ネイ。その傍にはいつも、サンキがいる。
幼いころからその命を「喰ってやる」とつきまとう鬼の青年だ。
ネイは祓っても祓っても邪気で穢れる村の神泉に悩んでいた。泉が穢れはじめたのは十七年前。自分と同じ年月だ。
いつしか村の長老たちもネイを疑いはじめ――。
「……わたしの魂をやると言ったら、この村を守ってくれるか」
「あのな、おまえの意思とは関係なく、俺はおまえが食べ頃に熟したら喰うつもりなんだが?」
自由気ままな鬼は、きっと魂を喰ったらさっさと自分など忘れてどこかへ行ってしまうのだろう。恋心を秘めたまま、ネイはサンキにある提案を持ち掛ける――。