椿本 岳は、笠嶋 真琴のことが好きだった。
真琴は、モデルのようにすらっとした体型に、人形のように整った顔立ちに加えて、日常的に男性とは距離を置いている、まさしく、高嶺の花という言葉が相応しい女子高生だった。
対して、岳は、地味で眼鏡のただの男子高校生。
彼女と付き合うのは絶望的だと、彼自身もそう思っていた。
高校二年生の夏の放課後、岳は、教室の机で眠っていた彼女を偶然発見する。
彼女の可愛らしい寝顔に見惚れ、思わず彼は彼女の頬を撫で、その様子を目を覚ました彼女に見られていた。
パニックに陥った彼は、何を思ったのか、突拍子もなく彼女に告白してしまうのだった。
「僕と……付き合ってください!」
「知ってるでしょう? 私が男の人を避けてること。どうして避けてるのか、今から椿本くんで、実践してみてもいいかな?」
頷いた岳は、真琴に腹部を刺され死亡した――――はずだった。
何故か生きていた彼は、彼女にナイフを突きつけられながら、ある提案をされる。
「私と付き合う代わりに、私に殺されてよ、椿本くん?」
恋人同士になる代わりに、放課後、彼女に殺される。
それが、岳と真琴が交わした契約だった。
岳と真琴。彼氏と彼女。殺される側と殺す側。二人の歪んだ愛の物語。
第8回ネット小説大賞一次選考通過作品。