「パパ」
「はい、パパですよー」
乾いた笑みで鶴城は少女に繰り返し答え…………大きく溜息を吐く。
別に特別な何かになれなくていい。
小市民として平凡な高校生活を送れればそれでよかったのに、なんでこんなことになってしまったのかと。
世界中のほとんどが溶けてしまっても、どこかでウィズと呼ばれる現実改変者たちがテロを起こしても、彼が暮らす範囲では平凡な日常があったはずなのに……それが今や彼自身もウィズとなり、ウィズとして規格外の力をを持つ少女が彼をなぜか父と慕っている。
それもこれもあのテロを起こした馬鹿野郎どもがいけないのだ。いくら小市民を志していても目の前にその元凶がいたらぶん殴るに決まっている!
現実濃度の低下によって世界中が溶けてしまい、楔と呼ばれる装置で辛うじて僅かな地域を維持している世界。
そんな世界でも平凡な生活を望む上凪鶴城は望まないままに争いに巻き込まれ、彼の小さな望みの邪魔をするあらゆるものを否定していくことになるのだった。