2016年09月05日 (月) 21:21
文学フリマ短編小説賞、おかげさまで大賞をいただきました。
応援してくださった皆様に改めて御礼申し上げます。
この作品は童話の形ではありますが、創作にかかわる人には色々と複雑な思いを抱かせるものでしょう。受け取った方がそれぞれの立場で考え巡らせてくださればと思います。
多くの人が自由に物語を披露し、その中からいくつもの作品が出版される、こんなご時世に居合わせておりますと、こうして様々な物語のまさに生きて紡がれる時に立ち会えるのは、本当に幸運なことだと実感します。
すべての読者・作者が、魔女と若者のように最良の巡り合わせを得られるわけではありませんが、多くの良い出会いがあるように、その中からまた新たな物語が生み出され語り継がれるように、そして、物語にかかわる人が喜びを得られるように、願っております。
なお、拙作へ頂戴した田丸様の書評は既に拝見したのですが、ちょっと意外な書評になっております。文学フリマにて同人誌をご購入予定の方は、お楽しみに。
※ ※ ※ ※
魔女の屋敷にはいろんなしもべたちがいます。
さいしょに若者をむかえに来たのは、頭に牛のような角がある大男。顔はとってもこわいのですが、屋敷のことをあれもこれも取り仕切っていて、入り用のものを魔法のようにほいっと出してきてくれます。
広い屋敷を手分けして掃除しているのは、小鬼たち。ロバのしっぽと耳があって、足はひづめになっているので、走りまわるとタカタカ楽しそうな音がします。
そんな小鬼のひとりが、庭のすみで粘土をこねていました。
さんぽしながら物語を考えていた若者は、いっしょうけんめいな小鬼をみつけて、おや、と足を止めました。
「何をしているんだい、小鬼くん」
「あっ」
小鬼はびっくりして、つくっていたものを落っことしました。
ぺちゃん、とつぶれてしまった粘土のかたまりを見て、若者は首をかしげました。
「入れ物をつくっていたのかい?」
「……うん」
小鬼は、はずかしそうにうつむいて、しっぽをくねくねさせました。
「ぼくも、奥方さまのとおんなじ、魔法のつぼがほしいの。だけど、うまく形ができなくって」
「そうか。じゃあ、手伝ってあげよう」
若者は袖まくりして、へしゃげた粘土のかたまりを取りました。でも、もちろん、物語のほかはてんでだめな若者ですから、ぐにゃぐにゃした変なものにしかなりません。
「うーん、むずかしいな」
「だめだねぇ」
若者と小鬼はそろってため息をつくと、あきらめて、どろんこになった手を洗いに行きました。
台所の井戸のところへ行くと、料理長とはちあわせしました。タコみたいに手足がたくさんある料理長は、ふたりを見て、ゆだったように赤くなりました。
「うわぁ、やめてくれ! そんな汚れた手でうろうろして、泥をそこらに落とすんじゃないよ、早く洗って!」
今から洗おうとしてたんだよ、と言い返したいところですが、料理長を怒らせると、おやつがちょっぴりになってしまいます。ふたりは何も言わずに、急いで水をくみました。
若者は手を洗いながら、ぼんやり台所を見まわしました。たくさん棚があって、いろいろな大きさのつぼがならんでいます。香りの良い葉っぱや、木の実、豆なんかが入っているのです。
そうだ、と若者は思いついて言いました。
「ねえ、余っているつぼはないかな。小さいのでいいんだ」
「つぼって、こんなのかい?」
料理長はへんな顔をしながらも、戸棚からひとつ取ってくれました。若者はそれを、はい、と小鬼に渡してやりました。
ちょうど、小鬼の両手ですっぽりかかえられる大きさです。でも、これは魔法のつぼではありません。小鬼は目をぱちぱちさせながら、若者を見上げました。
「ぼくの物語はぜんぶ奥方様のものだから、君が魔法のつぼをつくっても、ぼくのお話は入れてあげられないんだ。だから、君は君の宝物を、ここにしまっておいで。そうして、ときどき見せてくれたらうれしいな」
「ぼくの宝物?」
「うん。きれいな石とか、すてきな鳥の羽とか、へびのぬけがらとか」
そこまで言ってから、若者はしゃがんで小鬼のロバ耳のそばまで口をよせると、こっそりささやきました。
「見せてくれたら、ぼくはそれを、物語の中にしのびこませるよ」
ぱっ、と小鬼が顔をかがやかせました。若者はにっこりしてうなずき、小鬼の頭をわしわしとなでてやりました。
「奥方様といっしょに、君もぼくの物語を聞いておくれよ。そしたらさ、君の宝物は、ぼくの物語のかけらってことになるだろ。物語そのものじゃあないけど、それを見たら、きっといろいろ思い出せる。すてきだろ?」
「うん! よぉし、はりきって宝物をさがすぞー!」
小鬼はうれしそうに言って、つぼを抱えて走っていきました。若者はそれを見送って、ちょっとはずかしそうに、くすくす笑いました。
なぜって、それはずっと昔、若者がこどもだった時にはじめたことだったのです。宝物をみつけて、集めて、いつしかそれが物語のもとになっていたのでした。
「あのつぼには、ぼくの物語は必要ないかもしれないなぁ」
若者はつぶやいて、にこにこしながら奥方様のところへ向かったのでした。
おしまい。
※ ※ ※ ※
(堅苦しい御礼文だけでは芸がないと思い、取り急ぎぶっつけでここに直接書きこんだので、色々あれでソレなのはお目こぼしを…(苦笑))
あと、この賞にエントリーしていない方はチェックしていらっしゃらないから誤解されがちですが、受賞作が掲載されるのは
同人誌です。
一般に流通する書籍ではありません。
特設ページの方に詳細がありますが、今月18日大阪、11月23日東京それぞれの文学フリマでのみ、購入が可能です。(他の入手方法については私も存じません)
==以下追記==
9/8
拍手からお祝いコメントありがとうございました!
欠乏症…うう、ありがたすみません…早く新作をお見せしたい。頑張ります。
お祝い&再読ありがとうございます!
魔女のしもべたち、わりかし気のいい連中じゃないかと思います(笑) 見た目はちょっとアレですが…
きっと魔女も、自分のしもべたちが聞くぶんには、まぁいいか、ってなったでしょうね。一応遠慮してちょっと遠巻きにしつつ、皆でお話会してそうです(*´ω`*)