勇者と魔王の死闘。
全種族を巻き込んだ歴史に残る大戦争。
勇者は仲間たちと共に魔王を追い詰めると、ついに最後の一撃を放った。
その一撃は魔王の心臓を貫く。
魔王を倒した勇者は仲間たちに振り返り笑いかける。
しかし、そんな彼にかけられた仲間たちの言葉は、ひどく残酷なものだった。
「誰だお前は?」
魔王の呪いによって、あらゆる人の記憶から英雄の存在が消えた。
一緒に笑いあった仲間たち。
村で将来を誓い合った幼馴染の少女。
魔王を倒してくれと頭を下げた国王。
故郷の家族に、孤児院の子供たち。
誰からも忘れられた勇者は、姿を消した。
――――それから2年後。
魔王を討伐した英雄たちは新たに生まれた魔王討伐のために仲間を募った。
集まったのは数多くの高レベル冒険者たち。
だが、その中に一人だけ誰も知らない無名の冒険者がいた。
彼こそが忘れられた英雄にして最強の元勇者―――『ナナシ』。
これは誰にも知られることのなかった勇者の話。
全ての存在に忘れられた優しい英雄の物語だ。