家族を養うために田舎領主の使いっ走りをしているオグマは、その苦しい立場をいいことに安い給料でこき使われていたが、特別な能力もない自分を雇ってくれた領主に恩義を感じ、身を粉にして働く日々を送っていた。
ある日、神として崇められている竜の像に雷が落ち、その破片が頭に突き刺さるという大怪我を負うが、一命をとりとめたばかりか、それをきっかけに【理解】という聞いたこともないスキルを会得する。相手の心の声を知ることができるその力で領主に駒としか見られていないことに気づいたオグマは、使いっ走りをやめて王都へ向かう。
つまづくことはありながらもなんとか新生活を始めた彼はあるとき、王都内に現れたサイクロプスと遭遇する。退治には小隊が必要とされるその強力な魔物を、オグマはなんとひとりで討ち果たしてしまう。
「どうして勝てたんだ……?」
自分の中に秘められた規格外の力に戸惑うオグマ。
その様子を目撃していた、商家の娘であり絶世の美女であるリュエットに、
「どうか王都の英雄になってくださいませんか?」
と乞われ、人びとを幸せを守るために戦うことを決意する。
黒いフードとフェイスガードで顔を隠し、人びとを苦しめる魔物を次々と討ち果たす謎の人物の噂は瞬く間に王都に広がる。同時に【理解】は底知れない進化をたどっていく――。
これは優しさとひたむきさだけが取り柄の不遇な青年が、やがて英雄となるまでの物語である。
※『カクヨム』でも連載しています