普通の生活をしてみたい。
魔術師としての極みに到達した男が抱いたのは、そんなありきたりな願いだった。
彼が望んだのは、弟子達の作り出した技術により変わった未来での生活。
弟子達が生み出した魔術を利用した道具。魔術機。
それは将来、一般家庭まで普及して、生活を変えるだろう。
それによって様変わりした世の中を見てみたい。
そして、魔術にどっぷり使っていた今とは違う生き方をしてみたい。一市民として暮らしたい。
寿命の近づいた男は、その欲望に対して忠実に動いた。
使ったのは『新生の魔術』。すなわり、生まれ変わりである。
百年以上の時を経て、すっかり文明的になった世界に、最強の魔術師が復活する。
マナールと名前を変えた男。
彼が訪れたのは、様変わりした世界で最も危険な街だった。
魔術機によって便利になった社会。
巨大な魔境に挑む人々。
その隣に位置する危険すぎる街。
更には貴族以上に権力ふるい、好き勝手する魔術師達。
それらを尻目に、マナールは『普通の生活』目指して、活動を開始する。
宿の確保。
就職活動。
住宅状況の改善。
貯金。
大家の女の子とのお出かけ。
たまに人助け。
地道に生きようとするマナール。
しかし、大きすぎる力は、常に何らかのトラブルを呼び寄せる。
世界一危険な町の魔術師達が彼を放っておかない。
たまに見え隠れする、師匠の差し金。
あとなんか、普通に降りかかるトラブル。
「私は普通に暮らしたいだけなのに! なんでこうなるんだ!」
本人の意志を無視した出来事に、頭を抱えながらもマナールは力尽くで切り抜けていく。
果たして彼は、平穏な生活を手に入れることができるのか。
ついでに、マナールが動く度に神経をすり減らす領主代理の胃は無事でいられるのだろうか。
魔術師の街で、今日も最強の魔術師が(結果的に)大暴れする。
本人の望みとは裏腹に。